31


:アイリ、学祭行けなくてごめん。
:どうでもいいよ
:学祭、楽しかった?
:ふつうだよ
:コウジ君と仲良くなれた?
:忙しかったんだってば
 気分悪かったし
:気分悪かった?
 体調悪かったの?
:そうじゃないけど
:ごめんね。
 話出来る?


「アイリ、楽しみにしてたんだ」
「学祭?」
「ちがうよ」
「僕?」
「遊べるって思ってた。会えるって」
「………」
「ほんとはずっと前から気になってた。
 会ってみたいって思った」
「そか……」
「でも、もういいや」
「嫌いになった?」
「わかんない」
「………」
「………」
「チバ、病気なんだよきっと。ずっと前から」
「……病気?」
「そう。怖いんだよ」
「怖い? なにが?」
「なんだろ? 人かな」
「人?」
「うん。病気なんだよ。
 外に出られない」
「仕事は?」
「してるよ。でもほとんど自分家にいる」
「でも、電車乗ってるって言ってた。あれはうそ?」
「……あんま乗らないね」
「メールで会ったっていうのは?」
「あれは――」
「アイリには会えないの?」
「………」
「会えないんだ?」
「アイリ……」
「わかんないよ、チバ」
「アイリのこと、いつからか好きになっちゃったんだ」
「ずっと好きじゃなかったの?」
「好きだよ」
「ほんとに好きになっちゃったんだ」
「アイリもチバのこと好きだよ。だめなの?」
「会うのはだめ」
「なんで? わけわかんないよ!」
「チバ、病気なんだよ」
「病気?」
「うん」
「会えないの?」
「だめなんだよ、アイリ」
「わかんない!
 わかんないよ!」
「ごめんね、アイリ」
「いいよもう!」



30


:チバ、来ないの?
:ん?
 なんだっけ?
:学祭、今日だよ
 寝てた?
:起きてたよ。
 アイリ、学祭楽しんでる?
:忙しいよ
 走り回ってる
 もうやめたい
:きっとそれがいい思い出になるんだよ。
:チバ、おじさんみたいなこと言ってる
 もうお昼だよ?
 来ないの?
:チバはおじさんではありません。
 学祭、何時までだっけ?
:4時だよ
 早くこないと終わっちゃうよ?
:チバ、行ったほうがいい?
:来るって言ってたじゃん
:言ったけど。
 行っていいの?
:チバはアイリのこと嫌いになったの?
:好きだよ?
 ずっとアイリのこと気になってる。
:じゃあ、なんで学祭来ないの?
 おかしいよ
:チバ、今日は外に出れないんだ。
:アイリに会いたくないんだ?
:会いたいよ。
 好きだからね。
:じゃあどうして来ないの?
:今日は無理なんだよ。
:来るって言ったじゃん!
 アイリに会うってチバ言ったよ!
 うそつき!
:外出られないんだよ。
 ごめんね。
:チバなんてだいきらいだよ



29


:チバお仕事がんばってる?
 メールばっかしてませんか?
 社長さんに怒られるよ
:ん? アイリ、なんかいいことあった?
:アイリはいつも通りです
 いい子ちゃんですよ
:えー?
 それはどうでしょう?
:アイリいい子ちゃんだもん
:なんかいいことあったんじゃないの?
:なんで?
:だっていつもとテンション違くない?
:いいこと?
 あったかも
 でもないしょ!
:コウジくんと会えたんだ?
 きっとそれだ!
 正解?
:ちがう〜
 チバはどんな時に機嫌よくなるの?
:チバは太陽が出てたらそれだけで超気分いいです。
 太陽、大好きだからね。
:意味わかんないよ?
 チバ、暑いのきらいじゃなかったっけ?
:あ、きらい。
 じゃあ、太陽きらい。
:話がつうじません
 チバはやっぱアホな人です
:チバは朝ちゃんと起きたら機嫌いいよ。
:朝おきれないの?
 チバ、だめな人になっちゃうよ?
:だって目覚まし持ってないからね。
 なかなか起きれないんだよ。
 仕方ないでしょ?
:目覚まし買えばいいじゃん!
 チバはまず目覚まし買ってください
:え〜? いらないよ。
 もっと他に買うものがあります。
 冬用の服が欲しいです。
:目覚ましのが大事だと思います
 チバ、服持ってないの?
:持ってるよ。
 新しいコートが欲しいの。
:チバ、服好きなの?
:まあまあ好きかな。
 雑誌とか見るともうやばい。
 買わなきゃってなんない?
:アイリはあんま雑誌みないかな
 お店で気にいったら買うかんじ
:そっか〜。
 お店、行きたいな。
 中目に新しい店、出来たらしいんだよ。
 渋谷とか原宿出なくていいならすっげ楽かも。
:アイリ、渋谷とかほとんど行かないよ
 チバ、案内してくれる?
:服屋くらいしかわかんないよ?
 いいの?
:うん
 それでいい
 あ、でもチバ待ち合わせしても起きれないんだっけ?
:アイリがおはようメールくれたら起きるよ?
:え〜めんどい
:え〜お願い、アイリさん!
:いいけど
 じゃあ、ちゃんと起きてください
:じゃあ、がんばる。
:てか目覚まし、ケータイについてない?
 チバはそれもちゃんと使ってください
 ダメな人はきらわれますよ?



28


:こわいゆめみた
:夢?
 すごい時間だよ。
 寝れないの?
:あたまいたい
 あたししぬのかな
:そんな簡単に死なないよ?
 どんな夢だったの?
:こわいゆめ
 しにそう
 しぬかも
:アイリ、体調悪い?
 だいじょぶ? しんどい?


「頭いたい」
「体調悪い?」
「さむい」
「熱あるの?」
「しらない」
「今日なんかあった?」
「なんもない」
「そんな感じじゃないじゃん」
「わかんないよ! やめてよ!」
「………」
「やだ……、助けてよお兄ちゃん」
「―――!」
「あ――」
「ア、アイリ!?」
「しらない! なんでもない!」
「アイリ……。
 泣いてるの?」
「………」
「なんか、思い出した?」
「マサ兄ちゃんの友だち……。
 よくわかんない」
「……友だち?」
「思い出したくない!
 マサ兄ちゃんは悪くない! あたしが悪かったんだよ!
 あたしが出て行けばよかった! あたしが出て行けばよかった!」
「――アイリ?」
「………」
「アイリは悪くないよ」
「あたまいたい……」
「アイリ?」
「………」
「この前カリンと会った後もヘンだったよね?」
「なんかあった?」
「知らない!
 なんでもいいよ! 援助もしてるよ!
 だから? いいじゃんチバには関係ないよ!
 あたしが全部悪いよ! 知らないよ!」
「アイリ、僕はアイリのこと大好きだよ。
 ずっと見ていたい」
「うるさい!」
「前に何があったのか知らないけど、そんなのいいよ」
「うるさいうるさい!」
「今のアイリが大事だよ。
 アイリはいい子だよ」
「わかんないよ! なんでそんなこと言うの?
 あたしはダメな子だよ! いい子なんかじゃない!
 どうしてやさしくするの!?」
「アイリのこと、好きだからだよ。
 心配なんだよ」
「うそだよ! 会ったこともないんだよ?
 やりたいだけでしょ? やらせてあげるよ!
 あたしはそういう子だよ!」
「アイリはイヤだったんだよね? 後悔してるんだよね?
 したくなかったって言ったじゃん?
 したとかしないとか関係ないよ。
 今アイリがどう思ってるか、その時アイリがどんな気持ちだったか。
 それ以外に大事なことなんてないよ。
 アイリはいい子だよ」



27


:おはよアイリ。
 すげ〜眠い。
:もう1時だよ?
 そろそろ起きてください
 あんま寝ると脳が死ぬんだよ?
 チバ、だからアホなんだね
:死ぬの!?
 だから頭いたいの?
:チバ、頭いたいの?
 病気?
:病気かも。
 アイリはもっとチバをいたわって下さい。
:チバほんとに病気なの?
 だいじょぶ?
:風邪ひいたかなぁ?
 冷房つけっぱだったから。しんどいかも。
 チバ、かわいそうじゃない?
:ちょっとだけね
 よしよし
 昨日もメールなかったよね
 頭いたかった?
:昨日飲み会でさ、帰ったの5時なんだよ。
 地下の店だったから電波はいんないし。
:二日酔いじゃん!
 心配して損した
 チバは勝手に頭いたくなってください
:え〜しんどいよ?
 アイリやさしくしてよ。
:だめ
 チバは甘やかすとだめになります
:もうダメだから。
:そだね
:アイリのアホ〜!
:アイリ、アホじゃないよ?
 いい子ちゃんだもん
:それはどうでしょう?
:いい子ちゃんだもん
:えー……。
:やっぱアイリ、いい子じゃないんだね
:アイリの思ういい子ってどんなの?
:チバが言うならいい子じゃないんだよ、きっと
 チバはあたしとメールしてない間、なにしてたの?
 他の子とメールしてた?
:してません。
:うそだよ
:うそです。
 ちょっとしてました。
:やっぱしてたんだ
 いい子いた?
:いや、会ってないし。
:なんで会わないの?
:チバにも色々あるの〜。
:チバは誰かと付き合わないの?
:アイリは彼氏出来たの?
:チバのことを聞いてるの!
:付き合わないわけじゃないよ。
 今いないだけ。
 アイリは?
:好きなひとがいるんだよ
 ずっと
:アイリ、好きな子できたんだ?
 コウジくん?
:ちがうよ
 コウジくんは友だちだけど
:メールで会ったひと?
:そうかな
:メールはあんまよくないよ?
 どんな人がいるかわかんないじゃん。
:きっといい人だよ
:やさしいの?
:びみょう
:びみょうなんだ?
 じゃあ、カッコいいの?
:もっとびみょう
:え〜アイリ、カッコいい人好きじゃん?
 じゃあ、おもしろいんだ?
:どうだろ?
:どこがいいのかわかんないよ?
 そんな男はやめときなさい。
 チバ先輩からの助言です。
:チバだよ
:チバは僕だよ?
:もう! ないしょ



26


「ダイエット?」
「チバ太ってるの?」
「太ってないよ。ただ運動不足かもって思う。
 アイリはダイエットとかしたことない?」
「ないかも」
「アイリ、細いの?」
「どだろ? わかんないよ」
「あんま食べない?」
「そんなことないと思うけど。
 でも甘い物好きじゃないから」
「そなんだ! 珍しくない?」
「うん。よくびっくりされる」
「ケーキ、好きじゃないの?」
「あんま好きじゃないかな」
「アイスは?」
「ベタベタするから無理」
「えー!? マジで?」
「うん」
「じゃあ、弟とおやつ取り合いとかしないの?」
「しないよ? アイリ、大人だもん」
「大人はチバみたいな人をいうんだよ?」
「間違ってますよ?」
「弟、いくつだっけ?」
「小学生」
「弟、かわいい?」
「生意気だよ、サルみたい」
「サルなんだ?」
「サルでしょ?」
「あんま一緒に遊ばない?」
「遊ばないかな。あんま一緒にいないから」
「家にいないの?」
「アイリ、忙しいんだよ」
「学校とか?」
「いろいろ」
「色々か〜。
 弟、一緒にいてあげないと寂しそうじゃない?」
「なんで?」
「一人で家にいるんじゃないの?」
「そんなことないよ、お母さんいるよ」
「あ、そか」
「だからあたしは家にいなくても平気なの」



25


「会えたの!」
「ん? 会えた?」
「コウジくんが電車でね、話しかけてくれたの!」
「良かったじゃん。うまく話せた?」
「アイリのことなんて忘れてると思ってた。
 コウジくん、モテるんだよ」
「ん? ライバル多い?」
「わかんない。
 でも、クラスの子がコウジくんの話してた」
「そなんだ。カッコいいって?」
「その子、マネージャーしてるんだって。
 コウジくんはおもしろいよねって」
「でも電車で話したんだよね?
 どんな話したの?」
「え〜ないしょ」
「エロいこと?」
「チバとはちがいます。
 学祭のことだよ」
「仕事の話なの? 好きな人とかは?」
「いきなりそんな話しないよ!
 チバにもしたときないじゃん」
「今聞いてる気がするんだけど」
「コウジくんは楽しい人だよ?
 ちょっとカッコいいけど」
「チバはどんなひと?」
「アホな人」
「アイリ、きらい」
「アイリまちがってないよ?
 すごい正直に答えたんだけど」
「いいけど。学祭、いつだっけ?」
「来月〜! チバ、来るんだっけ?」
「コウジくんとアイリを邪魔しちゃ悪いじゃん?」
「そんなんじゃないよ」
「え〜?」
「てか、あたし学校ではいい子ちゃんだから、あんまうまく話せないよ。
 すごいおしとやかなんだよ?」
「アイリが! おしとやか!」
「チバはひどい人だよね」
「チバはいい人だよね」
「チバはアホな人です。
 来月、学祭くる?」
「わかんない。でも行こうかな」
「チバ、ナンパする?」
「しません」
「きっとするよ」
「そかな?」
「そだよ」
「じゃあ、一人だけするよ」
「一人だけ?」
「アイリって子をみつけるよ、きっと」