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「……チバ?
チバって根岸線なんだよね?」
「アイリ!!
どこにいたの!
大丈夫!?」
「そんなのいいからー!
根岸線だよね?」
「そうだけど……。
アイリ、大丈夫なの?」
「あってたー」
「アイリ?」
「来たよ」
「来た?」
「チバんちの近く」
「近く?」
「うん」
「どこにいるの?」
「駅……かな」
「駅? どこの?」
「ないしょー」
「どこにいるの?」
「内緒なのー!」
「アイリ?」
「………」
「………」
「ごめんね。
アイリ、もうダメかもしれない……」
「アイリ?」
「ごめんね……」
「………」
「………」
「ねぇ、アイリ。聞いて。
僕、好きな子と一緒にしたい事があったんだ」
「……どうせ、えっちい事でしょ?」
「チバさんはそんなキャラではありません」
「チバは、思いっ切りそういうキャラだよね」
「一緒にね、二人きりで月を見たいんだ」
「――月?」
「そう。
誰も来ないビルの屋上から、月を眺めるんだ。
アイリと僕と、あとは猫でもいればいい。
誰かに呼ばれても、下で何が起きても僕らには関係ない。
いっぱいバカな話をするんだ。
小学校の時した告白とか、度胸試しで飛び降りた堤防とか、二人乗りの自転車で行った冒険とか。
猫を抱いて、アイリの手を握って、月を見上げながら色んな話で笑うんだ。
それだけだよ。
アイリ。
きっと悪いことなんてどっか行くよ。
アイリ……。
月が綺麗だよ」
「………」
「……アイリ?」
「うん……すごく、綺麗」
「………」
「チバ?」
「うん?」
「……あたしね、いつも自分じゃない感じがするの。
あたしじゃなくて、別のアイリって子がいるんじゃないかなって。
その子が悪い子なの。
あたしとは違うの」
「………」
「でも、そう思いたいだけかもしれない。
あたしはアイリで、アイリはあたしなんだよね」
「………」
「ねぇ……チバ」
「……ん?」
「あたしもね、一緒に行きたいとこあった」
「行きたいとこ?」
「うん。
あたしのね、昔住んでた町」
「………」
「チバと一緒に……暮らせたらいいな」
「僕と? それはやめといた方がいいよ」
「そんな事ないよ」
「そんな事あるよ」
「チバじゃなきゃヤなんだよ……。
嬉しくないの?」
「そりゃ、嬉しいけど……」
「きっと生きていけるよ。
家なんかなくたっていいよ。
車で寝ればいいよ。
無理なら誰か泊めてくれるよ。
いつか、チバと一緒に行きたいな。
海とか見るの。
寒いから見るだけね。
あたしの小学校、たんぼの真ん中にあったんだよ。
信じられる?
神奈川って、いなかなんだね。
夜中にふたりで忍び込んで、あたしの教室を見てまわるの。
廊下とか、手をつないで歩くんだよ。
ここが好きだった音楽室とか、ここで告白されたとか、話しながら歩くの。
渡り廊下を抜けて校庭に出たら、鉄棒したり、ブランコ乗ったりするんだ。
ここには子猫を埋めたとか、この木に登ってたら友だちが落ちたとか。
バスケの大会が終わったあと、あたしだけ泣けなくてクラスの子に囲まれたことや、水泳大会に生理で出れなかったこととか話すんだ。
校庭のまんなかでキスしてほしいよ。
チバ、ずっと一緒にいてよ」
「……アイリ」
「うん」
「大好きだよ」
「うん……」
「………」
「眠いな……」
「アイリ……」
「あたし、そろそろ寝るね。チバ」
「……うん、ここにいるよ」
「終わりって、こういうのなのかな?」
「……わからない。
終わりなんて、あるのかな?」
「きっと、これが……終わりだよ」
「教えてよ、アイリ」
「チバ、大好きだよ……」
「教えてほしいよ、アイリ」