44


 アイリは僕が守る。
 三年前のあの時、守ってやれなかった。
 だから仇をとってやった。
 今回も同じ。
 僕が、すべてを解決する。
 僕がアイリを守る。
 アイリを傷付ける者は、絶対に許さない。
 許さない。



45


 これでお兄ちゃんはあたしのもの……。
 あたしのものだよ。
 ごめんね。
 会いになんて来れないよね。
 だって、会ったらばれちゃうもん。
 全部、最初から知ってたよ。
 あたしが最初にお兄ちゃんを見つけたんだよ。
 お兄ちゃんはあたしにメールなんて出してない。
 だってあたしは、メル友募集なんて書き込んでないんだもん。
 あたしは全部見ることが出来たの。
 すぐわかったよ、お兄ちゃんだって。
 チバなんて名前付けて、お兄ちゃんらしいよね。
 お兄ちゃんがあの人やっつけてくれて、あたし嬉しかった。
 お兄ちゃんはずっとアイリの味方だもんね。


 お兄ちゃん。
 ずっと嘘ついててごめんね。
 大好き。
 ――大好きだよ、お兄ちゃん。




 終



43


「……チバ?
 チバって根岸線なんだよね?」
「アイリ!!
 どこにいたの!
 大丈夫!?」
「そんなのいいからー!
 根岸線だよね?」
「そうだけど……。
 アイリ、大丈夫なの?」
「あってたー」
「アイリ?」
「来たよ」
「来た?」
「チバんちの近く」
「近く?」
「うん」
「どこにいるの?」
「駅……かな」
「駅? どこの?」
「ないしょー」
「どこにいるの?」
「内緒なのー!」
「アイリ?」
「………」
「………」
「ごめんね。
 アイリ、もうダメかもしれない……」
「アイリ?」
「ごめんね……」
「………」
「………」
「ねぇ、アイリ。聞いて。
 僕、好きな子と一緒にしたい事があったんだ」
「……どうせ、えっちい事でしょ?」
「チバさんはそんなキャラではありません」
「チバは、思いっ切りそういうキャラだよね」
「一緒にね、二人きりで月を見たいんだ」
「――月?」
「そう。
 誰も来ないビルの屋上から、月を眺めるんだ。
 アイリと僕と、あとは猫でもいればいい。
 誰かに呼ばれても、下で何が起きても僕らには関係ない。
 いっぱいバカな話をするんだ。
 小学校の時した告白とか、度胸試しで飛び降りた堤防とか、二人乗りの自転車で行った冒険とか。
 猫を抱いて、アイリの手を握って、月を見上げながら色んな話で笑うんだ。
 それだけだよ。
 アイリ。
 きっと悪いことなんてどっか行くよ。
 アイリ……。
 月が綺麗だよ」
「………」
「……アイリ?」
「うん……すごく、綺麗」
「………」
「チバ?」
「うん?」
「……あたしね、いつも自分じゃない感じがするの。
 あたしじゃなくて、別のアイリって子がいるんじゃないかなって。
 その子が悪い子なの。
 あたしとは違うの」
「………」
「でも、そう思いたいだけかもしれない。
 あたしはアイリで、アイリはあたしなんだよね」
「………」
「ねぇ……チバ」
「……ん?」
「あたしもね、一緒に行きたいとこあった」
「行きたいとこ?」
「うん。
 あたしのね、昔住んでた町」
「………」
「チバと一緒に……暮らせたらいいな」
「僕と? それはやめといた方がいいよ」
「そんな事ないよ」
「そんな事あるよ」
「チバじゃなきゃヤなんだよ……。
 嬉しくないの?」
「そりゃ、嬉しいけど……」
「きっと生きていけるよ。
 家なんかなくたっていいよ。
 車で寝ればいいよ。
 無理なら誰か泊めてくれるよ。
 いつか、チバと一緒に行きたいな。
 海とか見るの。
 寒いから見るだけね。
 あたしの小学校、たんぼの真ん中にあったんだよ。
 信じられる?
 神奈川って、いなかなんだね。
 夜中にふたりで忍び込んで、あたしの教室を見てまわるの。
 廊下とか、手をつないで歩くんだよ。
 ここが好きだった音楽室とか、ここで告白されたとか、話しながら歩くの。
 渡り廊下を抜けて校庭に出たら、鉄棒したり、ブランコ乗ったりするんだ。
 ここには子猫を埋めたとか、この木に登ってたら友だちが落ちたとか。
 バスケの大会が終わったあと、あたしだけ泣けなくてクラスの子に囲まれたことや、水泳大会に生理で出れなかったこととか話すんだ。
 校庭のまんなかでキスしてほしいよ。
 チバ、ずっと一緒にいてよ」
「……アイリ」
「うん」
「大好きだよ」
「うん……」
「………」
「眠いな……」
「アイリ……」
「あたし、そろそろ寝るね。チバ」
「……うん、ここにいるよ」
「終わりって、こういうのなのかな?」
「……わからない。
 終わりなんて、あるのかな?」
「きっと、これが……終わりだよ」
「教えてよ、アイリ」
「チバ、大好きだよ……」
「教えてほしいよ、アイリ」



42


「……チバ、げんき?」
「アイリ!」
「ん?」
「大丈夫なの!?」
「アイリは大丈夫だよ。
 チバはおかしくなっちゃった?」
「僕は……元気だよ」
「そっかー。今日もひきこもってた?」
「アイリ、今どこにいるの?
 これ、外?」
「うん」
「ちゃんとあったかくしてる?」
「うん……」
「アイリ?」
「チバ……」
「どうしたの?」
「……ごめんね。
 あたし、人を殺しちゃったかもしれない」
「―――!!」
「ごめんね……」
「どうして……?」
「だって……最悪だったんだよ?」
「………」
「逃げたかったの……」
「……うん」
「部屋にあった薬、ぜんぶお酒の中に入れたんだ。
 そのガイジン、もうイっちゃってたからふつうに飲んだよ。
 そしたらベッドに倒れこんで動かなくなっちゃって。
 すごい汗かいてた。
 なにか吐いて震えだして。
 怖くなって部屋から出たの」
「そっか……」
「ごめんね、チバ……」
「………」
「ごめんね……」
「………」
「………」
「なぁ、アイリ、遊園地行こう!
 ジェットコースター乗ったり、ソフトクリーム食べたりしよう!」
「……チバ?」
「観覧車も乗るよ!」
「観覧車?」
「そう! ポップコーンとか食べながら一緒に遊ぶんだよ!」
「……楽しい?」
「当たり前じゃん!
 一緒にお化け屋敷で走り回ったり、メリーゴーランド箱乗りしたりすんだよ。
 超テンション高いよ?」
「チバ、アホだもんね」
「チバはかしこい大人です」
「それは間違ってるよね」
「ジェットコースターとか、観覧車とか、アイリと乗りたいよ。
 行こうよ、遊園地!」
「遊園地……」
「そう、遊園地〜!」
「……チバとなら、楽しめそうな気がする」
「そうでしょ? 行こう!」
「うん、わかった。
 行くよ。
 いつか、きっとね」



41


 アイリを助けて下さい。
 神様。
 神様。
 神様。
 好きなんです。
 本当に、大好きなんです。
 アイリを助けて下さい。
 お願いです。
 もうこれ以上、何も起こらないように。
 神様。
 お願いです。
 壊れそうです。
 アイリが消えちゃう前に。
 神様。



40


「アイリ?」
「えへへ」
「アイリ! どうしたの!?」
「からだ、おかしいの」
「おかしい?」
「うん。あたま、ふらふらする……すごくあついし」
「なんかされた?」
「あんま、おぼえてない」
「薬とかは?」
「わかんない」
「注射とかされてない?」
「わかんない」
「アイリ……」
「ゆめのなかに、いるみたい。
 チバ、会いにきてよ」
「………」
「ねぇ、聞いて。
 聞いてる? チバ」
「……うん」
「あたしが寝てるとこに、知らない人が連れられて来たんだ。
 細くて白くて生きてるって思えなかった。
 裸で目隠しされてて、手も縛られてたんだ。
 あたしにね、舐めろっていうの、その人のをさ。
 怖かったからあたし舐めたよ。
 汗ともどした時の匂いがしてさ、気持ち悪かったよ。
 どのくらいそうしてたのかな。
 でも、全然立たないんだ。
 あいつが来て、お前もう壊れたんだな。
 もういいよなって言ってその人の顔をつま先で蹴ったんだ。
 なんか自転車が倒れるみたいに、その人、床に倒れたんだよ。
 あたし、怖くて逃げたんだ。
 ベッドの陰で震えてた。
 バカ、アイリ怖いのか?
 怖くないだろ?
 俺はお前を大事にしてるだろ?
 痛くなんかしないだろ?
 ――って言いながら、その人の鼻に何かを突き刺したんだ。
 すごい声がして、あたしは耳をふさいだんだよ」



39


「……チバ?」
「アイリ!?
 連絡なくなったから心配した!」
「うん……」
「どした? これ、公衆電話?」
「そう」
「今どこ?」
「新宿……かな」
「ずっと何してたの? だいじょぶ?」
「うん。
 チバ、あたしね」
「うん」
「あ――、」
「アイリ?」
「―――」
「アイリ!?」