『ズル休み』


「うぅ、頭痛い……」
 鼻をすんすん言わせながら、チトセがパジャマ姿で降りてきた。
 顔を両手で挟んで、指先はこめかみ。
「どした?」
 明るいダイニング。
 私は朝食のお味噌汁を傾けながら、声を掛ける。
「風邪――、かも」
 涙目で訴える。
 頬を押しすぎて、口がタコみたいになってるぞ。
「だから、掛け布団替えるかって聞いただろ?」
「こんなに寒くなるなんて、思わなかったんだもん」
「てかお前、布団蹴ってたしな」
「な、なんでそんな事知ってるの?」
「いや、扉開いてたし」
「あ、……開いてても、見ちゃだめ!
 慎みを知りなさいってお母さんも言ってた!」
 日本語、間違ってる。いいけど。
「学校、どうする?」
 チトセは糸が切れたかのように、ソファに倒れ込んだ。
「無理ぃ……」
 まあ、そうだろうな。
 ソファの上で、もぞもぞと体勢を整えている。
 寒いのか?
 暖房でも入れるか?
 小動物のように縮こまるチトセを見ていると、身体が熱くなってきた。
 だらだらごろごろする姿。
 目が釘付けになる。
 なんていうんだ、これ? 抑えきれない衝動?
 実は今朝も十分くらい、ベッドの上のチトセを観察していた。
 私はそっと立ち上がると、クッションを抱えてチトセの隣に飛び乗った。
「お、お姉ちゃん!?」
 そのまま横になる。
 ソファはチトセの体温で暖かかった。
「私も休む!」
 私は目を閉じて、胸の鼓動をクッションに押し付けた。


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