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『僕の影』
帰りの駅。
僕は君と並んで電車を待つ。
夕暮れのホームに人影はまばら。
帰宅部にしては遅すぎるけど、部活をやってるなら帰るにはまだ早い。
周囲の目を気にせず話せるこの時間帯が、僕は気に入っていた。
新学期も今まで通り平凡で、話題といったら終わった夏休みの事ばかり。
海に行ったとか、花火キレイだったとか、お祭り一緒に行きたかったねとか。
僕は悪友とした肝試しの話をして、君を笑わせる。
テレビの中の誰かのように、オーバーアクションで盛り上げる。
友達の驚いた表情を真似して見せる。
君は口元をおさえるようにして、僕の話に相槌を打つ。
声を上げて笑う。
ホームに電車の到着を知らせるチャイム。
風を連れて車両が入ってくる。
僕と君の前で、扉が開く。
「じゃあ、また明日ね」
君は小さく手を振って、電車に乗り込む。
「うん、またね」
僕も片手を上げてうなずく。
ドアが音を立てて閉まり、声は届かなくなる。
窓越しに手を振る君。
僕は笑いながら、さっきの表情をもう一度してみせた。
君はまた笑ってくれた。
「――好きだよ」
声に出してみる。
「独り占めしたい……」
出て行く電車。
手を振る君。
遠ざかっていく。
誰もいなくなったホーム。
夕日に、僕の影だけが長く伸びていた。
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