『夜会』


 夜の学校。
 第二校舎の外階段。
 出るっていうウワサ。
 僕はタキと一緒に校門を乗り越えた。
「早く来いよ」
 タキが前に立ち、校舎に向かう。
 表玄関を通り過ぎ、体育館の脇を抜ける。
 僕たちは静かにウワサの階段を登り始めた。
 五月に、外階段から女の子が飛び降りた。
 いじめだとか、家庭に問題があったとか、色んな推測が飛び交った。
 月明かりに照らされた階段。
 不意にタキの足が止まった。
 僕はぶつかりそうになり、驚いて顔を上げる。
 最上段の踊り場に女の子がいた。
 白いタイツ。
 膨らんだスカート。
 赤いフリルのついた上着
 頭には、つばの付いた帽子のような物をかぶっている。
 全身ほぼ真っ黒。
 月を逆光に、その子はゆっくりと振り向く。
「うぅわぁあああ!!」
 タキは叫んだかと思うと、僕を突き飛ばして階段を駆け下りた。
 金属の足音が遠ざかっていく。
「あははははは!」
 呆然と見上げる僕の前で、その子は笑い声をあげる。
 普通に、同年代の子の笑顔。
 怖いとか、オバケだとか、そんな考えはどこかに行ってしまった。
「ここで、何をしてるの?」
 僕は笑い声に負けないように聞いてみた。
 ピタッと動きが止まる。
 その子は僕に視線を向けた。
「友達をね、見送ってるの」
「……飛び降りた子?」
「そう。この服、あの子のなんだ」
 すごく仲が良かった事、自分に出来る事をずっと考えて、ここに来るようになった事。
 その子は淡々と話してくれた。


 僕は今日もその子と並んで立ち、飛び降りた子のために祈る。
 狭い踊り場。
 体温を感じながら――。
 きっといつか、罰が当たるだろう。


(634文字)