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『かくれんぼ』
「もういいかーい?」
涼しい風。
葉擦れの音。
「もおいいかぁあい!!」
鳥の羽音。
俺の声が周りの木に反響する。
返事はない。
たぶん、いいんだろう。
俺は目に押し付けていた腕を離すと、ハナを探すために振り向いた。
「どこいったー?」
木立を抜けて、原っぱに出た。
俺は見かけた猫じゃらしを指先で撫でる。
見渡す限り、膝丈の草原。
畝の向こうにもずっと広がっている。
さらに遠くにまた木立。
俺は少し眩暈を感じた。
こんな広い場所でかくれんぼ始めたの、失敗なんじゃないか?
あのアホ、どこまで走っていくかわからんじゃないか。
俺は自分の迂闊さを呪った。
「どこだー?」
日が傾いてきた。
このままだと明日の朝刊に、二人とも行方不明者として載ってしまうかもしれない。
そんな不名誉な目立ち方はしたくなかった。
「ハナぁー!!」
「出て来ーい!!」
走りすぎて横腹が痛い。
汗が乾いて何だか寒い。
俺、ちょっと追っ手みたいじゃないか?
「もう、かくれんぼは終わりだー!」
どっかで聞いたセリフだし。
もろ悪役っぽいし。
本格的に暗くなって、もう、一人で探すには限界が近い。
誰かに相談するしかない。ぶっちゃけ、捜索隊?
ゼエゼエ言いながら、俺は元の木立に戻ってきた。
ここを抜ければ町に出る。
その前にちょっとだけ、息を整えさせろ。
木の幹に額を押し付けて、ゲホゲホ言ってると、目の前に猫じゃらしが突き出された。
俺の顔面をひょこひょこと触る。
ものすごい脱力感を感じて、俺はその場に座り込んだ。
「……どこにいたんだ?」
「いや、すぐそこでねて――」
言い終わる前に、小さな頭を引っぱたいた。
「いったあ! いったぁあ!
なにそれ!? 叩くことないでしょ!」
俺はハナの手から猫じゃらしを奪うと、地面に引き倒した。
「ちょ――! なに!?」
両手を頭の上で押さえて、猫じゃらしで顔を撫でまくる。
「や、やめてぇ! 許してぇ!」
「いーや、許さん」
ハナは結んだ髪を乱して暴れる。
スカートの裾が太ももまでめくれていた。
なんだ。やっぱ俺、悪役みたいだ。
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