クロッキー


「不機嫌そうに座る」
 私が告げる。
 ユキは椅子に座り、机に頬杖をつく。
 私はスケッチブックに鉛筆を走らせる。
 頭、肩のライン、制服の背中、と順に描く。
「あと三分」
 ユキが無表情につぶやく。
 鉛筆の音だけが、放課後の教室に響く。
「終わり」
 ユキはそう言って立ち上がった。
 私はスケッチブックを一枚めくり、脇に置く。
 お互いに場所を替わり、今度はユキが言う。
「机に腰かける」
 私は机に深く腰かけ、プリーツを整え、後ろに手をつく。
「こっちを見て」
 ユキの方を向く。
 ユキはスケッチブックを立て、クロッキーを始める。
 鉛筆を持つ腕が、小刻みに揺れる。
 セルフレームの奥の目が、こちらを見つめている。
 いつもの無表情。
 私はユキに、観察されている。
 不意にユキが立ち上がり、近付いて顔を寄せ、私の手を握る。
 冷たい手だった。
「……時間」
 耳元でつぶやき、そっとセルフレームを押し上げる。
 私は瞬間の衝動を押しやり、ユキに告げる次のポーズを考える。


(398文字)