『真剣勝負』


「じゃあ、勝負する?」
 私はテーブルの上にあったヘアピンを掲げて見せる。
 隣町のケーキ屋さんの小さな箱を挟んで、私とチトセはにらみ合う。
 季節限定のモンブランと、定番の生チョコショートケーキ。
 どっちが先に選ぶのか、いつもの真剣勝負だ。
「い、いいよ」
 チトセが乗ってきた。
 私は黙ってヘアピンをチトセに渡す。
 チトセは真剣な顔で受け取ると、両手を背後に回した。
「は、はい! どっち!」
 こぶしを握って、私の前に差し出す。
 私はいつも通り、チトセの顔を見つめる。
 思わず笑みがこぼれた。
「こっち」
「ひッ!」
 チトセが泣きそうな声をあげた。
 おずおずと手を開いてみせる。
 私が指差した方の手のひらに、さっきのヘアピンが握られていた。
「お、お姉ちゃんすごい。
 なんでいっつもわかるの?」
 私は堪えきれずに、あははと笑った。
「だって、一生懸命見てるんだもん」
 チトセの顔が赤く染まった。
「ず、ずるいー!」
「ずるくないよ。
 ってことで、私はこっちね」
 言いながらモンブランに手を伸ばす。
「え?」
「ん? ダメなの?」
「だ、だめじゃないよ!」
 妹が欲しがる物なんてわかってる。
 にやけつつ生チョコショートに手を伸ばすチトセの横顔を見ながら、私は少し苦手な栗の砂糖漬けをほおばった。


(511文字)