■
『夏』
ヒマワリが雨に揺れている。
庭は大きな水たまりになってる。
たくさんの雨の粒が、地面にぶつかっては跳ねる。
少し蒸し暑い部屋の中。
私たちは並んで座って、庭を見つめていた。
台風が三つもまとめてやってきて、もう一週間、外で遊べない。
ナツハは、隣で大きなわら帽子を手に、膝をかかえていた。
焼けた肌が少し白くなったかもしれない。
「よし!」
そういうと、ナツハはいきなり立ち上がった。
両手でショートパンツのお尻をはたく。
窓を開けてそのまま飛び降りた。
小さな庭の真ん中。
すぅっと息を吸い込むと、空に向かって大声をあげた。
「ばかーッ! 遊びに行けないじゃんかー!」
私はびっくりして、雨に濡れるナツハを見つめた。
そんな大声出したら、怒られちゃうよ。
心配になって、私は自分の家の窓を見た。
お母さんに聞こえたりしないかな?
「あめー! 降るんじゃねー!」
ナツハがまた、空に向かって叫んだ。
「この子、身体が弱いので無理させたくないんです」
お母さんが、この前言った言葉。
ナツハのお父さんは、困ったような顔で笑っていた。
お母さんはいつも私の身体を心配する。
でもそれって、本当に私のためかな?
ナツハと遊ぶのは悪い事なのかな?
考えていると何だかもやもやしてきて、眉間にしわが寄っていた。
頭を振って考えないようにする。
勢いよく立ち上がると、私も庭に飛び降りた。
裸足に濡れた地面が気持ちいい。
「ばかぁー!」
真似して叫んでみる。
ナツハが笑いながら振り向いた。
「ばかーッ!」
私たちは夏の空に向かって叫ぶ。
今この時を、せいいっぱい楽しむ。
絶対、この夏を、今までで最高の夏にする。
(662文字)