『夏』


 ヒマワリが雨に揺れている。
 庭は大きな水たまりになってる。
 たくさんの雨の粒が、地面にぶつかっては跳ねる。
 少し蒸し暑い部屋の中。
 私たちは並んで座って、庭を見つめていた。
 台風が三つもまとめてやってきて、もう一週間、外で遊べない。
 ナツハは、隣で大きなわら帽子を手に、膝をかかえていた。
 焼けた肌が少し白くなったかもしれない。
「よし!」
 そういうと、ナツハはいきなり立ち上がった。
 両手でショートパンツのお尻をはたく。
 窓を開けてそのまま飛び降りた。
 小さな庭の真ん中。
 すぅっと息を吸い込むと、空に向かって大声をあげた。
「ばかーッ! 遊びに行けないじゃんかー!」
 私はびっくりして、雨に濡れるナツハを見つめた。
 そんな大声出したら、怒られちゃうよ。
 心配になって、私は自分の家の窓を見た。
 お母さんに聞こえたりしないかな?
「あめー! 降るんじゃねー!」
 ナツハがまた、空に向かって叫んだ。
「この子、身体が弱いので無理させたくないんです」
 お母さんが、この前言った言葉。
 ナツハのお父さんは、困ったような顔で笑っていた。
 お母さんはいつも私の身体を心配する。
 でもそれって、本当に私のためかな?
 ナツハと遊ぶのは悪い事なのかな?
 考えていると何だかもやもやしてきて、眉間にしわが寄っていた。
 頭を振って考えないようにする。
 勢いよく立ち上がると、私も庭に飛び降りた。
 裸足に濡れた地面が気持ちいい。
「ばかぁー!」
 真似して叫んでみる。
 ナツハが笑いながら振り向いた。
「ばかーッ!」
 私たちは夏の空に向かって叫ぶ。
 今この時を、せいいっぱい楽しむ。
 絶対、この夏を、今までで最高の夏にする。


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