『プレゼント』


 甘い香り。
 黄色に、青に、オレンジのケーキみたいなかたまり。
 巨大なクグロフ型。
 凝ったプレゼントみたいなラッピング。
 外国の生鮮食品売り場のようなディスプレイ。
 駅ビルの中の石鹸屋さん。
 僕は君に付き合って、店の中に入る。
 小さなクッキーみたいな石鹸。
 こっちはまるでアイスクリーム。
 あれはオレンジのゼリー?
 君は手を泡だらけにして、次々に色んな石鹸を試していく。
 そのうち、食べ始めるんじゃないかってくらいの勢い。
「そっちもいいなぁ!
 あ、でもやっぱりこれかな?」
 どちらでもお選びになって下さい、姫。
 ――ていうか、結構な予算がありますよ?
 何年分を買い込まれるおつもりですか。
「ず〜っと、使えるくらい!」
 そうでしたか。……大丈夫ですか、姫?
「だいじょうぶ!」
 今日は君の誕生日。
「石鹸が欲しい!」
 君は突然そう言った。
 意味不明です、姫。
 まぁ、でも、ここに来て多少は理解した。
 君の好きそうなものばかり。
 とりあえず買いたいだけ買ったなら、次は食べられる方のケーキを探しに行こう。
 名前も入れてもらわないと。
 小さなカゴはもういっぱい。
 君の笑顔もあふれそう。
 僕は姫に内緒で、同じ香りの石鹸を買いました。


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