『胸の音』


 窓の外を流れる風景。
 海と、堤防と、その向こうの青い空。
 秋の遠足。
 地元じゃ有名な観光地の海岸。
 低学年の頃から毎年のように来てる。
 今さら、わくわくすることなんてない。
 バスの中はカラオケボックス状態。
 誰かが次々に曲を入れる。
 合間に先生がちょっと懐かしい曲を歌う。
 これはこれで楽しい時間かもしれない。
 いっちばん後ろの広い席。
 揺れを感じながら、いつもの友達と取り留めのない話をする。
 誰が誰に告白したとかしないとか。
 あの子は絶対あの子が好きだとか。
「……誰が好きでもいいじゃん」
 前の席からリョウタの声。
「ちょっとー、勝手に聞かないでよね!」
 私はリョウタの背もたれに手をかけた。
「ていうか、どうでもいいなら言いなさいよ!
 リョウタは誰が好きなの?」
「うぇ!? いや、えっと……」
 いきなり歯切れが悪くなる。
 隣の友達が笑いながら言った。
「そんなん見てたらわかるじゃん!
 気付いてなかったの、カナ」
「え……? なに?
 もしかして、あたし!?」
「う、――うん」
 リョウタが前を向いたまま、小さくうなずく。
 心臓がピョンッてはねた。
 友達のからかう仕草。
 自分の胸の音が聞こえる。
 バスの振動も、カラオケの音も、わからなくなるくらい大きく――。


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