■
『帰り道』
アスファルトの上の小石を蹴る。
転がって、用水路にぽちゃんと落ちる。
学校からの帰り道。
みんなから少し離れて、僕はゆっくりと歩く。
小石の残した小さな波紋。
すぐに広がって見えなくなる。
「―――!!」
いきなり後頭部に衝撃を喰らった。
「なんで先に帰るのよ!」
振り向くと、カナが自転車に乗っていた。
「なんでいきなり殴るんだ!?」
「先に帰っちゃうからでしょ?」
友達が見てる。
恥ずかしい。
「そんなの――僕の勝手だろ?」
思わず目をそらした。
「そういうこと言うわけ?
つめたーい!」
「そうだぜ、トオル!
つめたーい!」
みんなの笑い声。
カナは自転車を降りると、腕を組んできた。
「く、くっつくなよ」
「もう! 素直じゃないなぁ」
「意味がわかんないから」
カナが僕の顔を、下からのぞき込む。
「あたしの事、好きなくせに!」
「な――!?」
カナが笑いながら、自転車をついて走る。
僕を、みんなを、追い越していく。
長い髪がぽんぽん跳ねる。
水面を背に、きらきらと光る。
(410文字)