『一時半』


 探偵が、本を探して世界中を旅する。
 悪魔が行く先々で邪魔をする。
 精神的に追い詰めていく。
 森の中に佇む古びた屋敷。
 美しい庭の苔むした濠。
 玄関を入ると、見上げるような螺旋の階段。
 部屋いっぱいに広げられた、複雑な模様の絨毯。
 無造作に配置されたロココ調の家具。
 豪奢な装丁の書籍で埋まった、天井まである棚。
 絵画のようなカットが続き、僕は必死で目に焼き付ける。
「すげーきれー……」
 思わず呟く。
 その肩に、ユミの頭がかくんと当たった。
 見ると、完全に目が閉じている。
 夜の一時半。
 部屋の照明は目の前のテレビだけ。
 僕と違って、神秘学にも映像にも興味ないもんな。
 そりゃ、眠くもなるか。
「ベッドで寝る?」
 問いかけると、ハッと目を開いた。
 手の甲で顔をこすりながら言う。
「だ、だいじょぶ!」
「ほんと?」
「うん――」
 言いながら目が閉じていく。
「寝てるよ?」
「寝てない……よ……」
「いやいや、寝てるやろ」
 返事はなかった。
 まぁ、いっか。
 僕はまた映像に戻る。
 肩にユミの頭が乗っている。
 テーブルのコップにさえ手を伸ばせなくなったけど、これはこれで悪くない。
 夜の一時半すぎ。
 僕は探偵と悪魔の心理戦を見守る。


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