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:チバ、今へいき?
 寝てる?
:ん? 起きてるよ。
 DVDとか見てる。
 アイリ、寝れないの?
:電話できる?


「チバ?」
「こんば〜。どしたの?」
「誰かと話したかったんだよ」
「そうなんだ。寂しかった?」
「ちがうかな」
「たしかに誰かの声、聞こえるね」
「うん。ひとんちだからね」
「ひとんちなの?」
「うん。大学生だって」
「また出会い系?」
「まあ、そうかな。いいじゃん別に」
「いいけどね」
「友達と一緒なんだよ」
「友達?」
「うん、にこうえかな」
「ふぅん。同じ学校?」
「違うよ。知り合いの子」
「そなんだ」
「今日はその子のメル友と会ってるの」
「そっかぁ。
 あれ? 電話してて平気?」
「うん。だいじょぶだよ。こっちのが楽しい」
「んん? それは僕も嬉しい」
「ヒマなの?」
「大人だからね」
「大人はヒマなの?」
「そうだよ。忙しいふりしてるだけ。
 誰かの忙しいふりのために僕も忙しいふりしてるだけだよ」
「へんなの」
「アイリは違うの? いま忙しい?」
「んん。忙しくないかな。
 あ、でも受験があるよ」
「受験? 高校受験?」
「そだよ」
「頑張んないと!」
「でもうちエスカレーターだから、あんま頑張んないかも」
「私立だっけ?」
「うん」
「お嬢様学校?」
「女子校じゃないよ。普通の学校」
「じゃあ、勉強しなくても平気?」
「あんま平気じゃないかな」
「そっかぁ。じゃあ勉強する?」
「カバン持ってんだけどね。
 今日はいいや」
「ひとんちだしね」
「うん。騒いでるから勉強なんて出来ないよ」
「みんな何してるの?」
「んん? えっちかな」
「えっちしてたんだ!」
「うん。びっくりした?」
「うん、ちょっとね。
 意外だった」
「あの子、そういう子だから」
「――アイリはしないの?」
「あたしはしないよ。
 あの子は頭がおかしいんだよ」
「あはは。あたまおかしいんだ、その子」
「うん。あたしは違うもん。
 明日も学校だしさ」
「あ、明日学校なんだ」
「当たり前じゃん」
「もうすぐ1時とかだよ。だいじょぶ?」
「う〜眠いね、きっと」
「眠いね」
「まあ、保険室行けばだいじょぶだよ」
「保健室行けるの?」
「行けるよ。チバは行かなかった?」
「あんま行かないかな」
「明日はリーダーあるからたぶん平気」
「そなの?」
「うん。リーダーの先生と仲いいんだ。
 すぐ保健室行かせてくれるよ」
「保険の先生とは? 仲いい?」
「あんまよくない」
「よくないんだ?」
「だってすぐ怒るんだよ?
 仲良くできないよ」
「すぐ怒るの?」
「うん」
「なんでだろ?」
「う〜ん。たぶんね――」
「たぶん?」
「あたしが先生と仲いいのがイヤなんだよ」
「そなの?」
「見たらわかるもん。
 あの先生、ヨコタのこと好きなんだよ」
「ヨコタ?」
「リーダ−の先生。
 背高くてさ、人気あるみたいだよ」
「カッコいいんだ?」
「それはどうかなぁ。眉、太いよ」
「アイリは誰が好みなの?」
フクヤマさん!」
フクヤマ? 雅治?」
「そう〜! カッコいい!」
「前も言ってたっけ?」
「そだっけ?」
「福山、たしかにカッコいいね」
「ヨコタはそれに比べるとダメダメ」
「ヨコタ?」
「リーダーの」
「眉太いから?」
「うん」
「保険の先生、おばさんだからもてるはずないのにね」
「おばさんなの?」
「二十代はおばさんでしょ?」
「ヨコタは二十代じゃないの?」
「たぶんそう」
「じゃあ、おじさん?」
「うん。おじさん」
「福山、三十だよ?」
「福山さんはいいの。カッコいいから」
「カッコいい人好きなんだ?」
「うん。普通じゃない?」
「まぁね」
「かわいい子好きでしょ?」
「そりゃね」
「じゃあ、一緒だよ」
「一緒かなぁ?」
「あー、やだなぁ。
 制服しわだらけなんだよ」
「学校帰りなの?」
「うん。
 送ってってくれるって言うから来たのに」
「そうなんだ。だいじょぶ?」
「だいじょぶじゃないかも」
「アイリかわいいんだから、気をつけなきゃ駄目だよ」
「見たときないじゃん」
「わかるんだよ」
「ヘンなの」
「だって女の子じゃん。
 女の子は気をつけないと」
「おんな扱いしてくれるんだ?」
「当たり前じゃない?」
「あたし、まわりのひとからおんな扱いされたときないよ?」
「そうなの?」
「うん。いつも男みたいだって言われる」
「でもえっちはしてるんでしょ?」
「えっち?」
「うん。まわりのひとたちと」
「まぁね」