『メイク』


 いつからだろう?
 私が、姉のメイクをするようになったのは。
 小学校高学年の時には、もう興味を抱いていた気がする。
 だんだんエスカレートし、髪を切ったり、化粧を手伝うようになった。
 去年、美容師の専門学校に入学した。
 姉は私を信頼している。
「ユウキー!」
 姉が私を呼ぶ。
「遅刻しそうなの!
 パパッと整えてくれない?」
「いいよ」
 私は雑誌を閉じて立ち上がった。
 細身のパンツに、ハイゲージニットのノースリーブ。
 服装に合わせて、私は姉の髪にハサミを入れる。
 少し派手目に化粧をほどこす。
 合わせて15分程度。
 満足のいく完成度。
 鏡の中、姉が私に笑いかけた。
 チャイムの音。
「はーい!」
 姉が勇んで階段を降りていった。
 玄関の扉を開く音。
 声までは聞き取れない。
 私はゆっくりと降りていく。
 男が私に気付いて、片手を上げる。
 姉が振り向いた。
「ありがとうね、ユウキ」
 さっき塗った姉の口紅が剥がれていた。
 私は憂鬱な気分になる。


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