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『ニアミス』
「じゃあ、終わりだね」
キサからのメール。
携帯を閉じる。
俺は製図台の前で、ひとつため息をついた。
書きかけの平面図を見下ろす。
ほころびを見つけようとしたが、どこにも問題はなかった。
ただ幼なじみだからなんて理由で、うまくは付き合えない。
俺は長くとどまった、心安らぐ場所を、自分から放棄した。
カイの気持ちを知って、それでも変わらずにいる事なんて俺には出来なかった。
そうだよ。
お前の方がうまくやれる。
遠慮する相手はもういないはず。
二度と連絡はしない。
どうせ俺には、傷付ける事しか出来ない。
ずっとそうだったんだろう。
それならそれで構わない。
だけど、少しだけカイがうらやましくも思えた。
専門の校舎を出ると、顔見知りが玄関前にたむろしていた。
「お、ジン! 飲み行かね?」
「今から?」
「予定あんの?」
「それを俺に聞くのか。金曜の夜だぜ?」
「よし、行こ!」
「無視かよ」
駅前に向かう坂道を下る。
俺たちは騒ぎながら、いくつかの居酒屋の前を通り過ぎる。
下品な冗談に笑い声をあげる。
ネオンがぼやけて見えるのは、きっと笑いすぎたせい。
あいつの声を聞いた気がするのも、きっと周りがうるさすぎたせい。
街の喧噪。
俺はその中のただの一人になる――。
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