『持久走』


 グレーの空。
 砂の舞う校庭。
 四時間目の体育。
 マラソン大会を見据えた持久走。
 僕は走っている池田を見守る。
 『走る』というより、『泳ぐ』くらいの速度。
 二つに結んだ髪。
 薄い胸が上下する。
 細い腕が力なく垂れている。
 途切れそうな息遣い。
 いつもはすごく気が強い。
 僕なんかしょっちゅう叩かれている。
 だけど、体力だけが圧倒的に足りない。
 握力なんて、十無いくらい。
「たい、いく……」
 僕の前を通り過ぎる。
「き、らい……」
 うん、知ってる。
 フラフラの足取り。
 不意にもつれる。
 視線が宙を漂う。
 ヤバい表情。
 あ、倒れた。
 僕は走り寄ると、脇にしゃがんだ。
「……生きてる?」
 池田は倒れたまま、わずかに首を振った。
 答える気力もないようだ。
「せんせー!
 池田さんがまた倒れました!」
 そう叫んで僕は立ち上が
 ――ろうとして、また座った。
 池田がスウェットの端っこを掴んでいた。
 顔は伏せたまま、荒い息の合間。
「またって……、いうな……」
 そこは突っ込むんだ?
 僕は池田の腕を取る。
「おんぶぅ……」
 わかってるよ。
「ほんと、いつもこうなら可愛いのに」
 後頭部を弱々しく叩かれた。


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