『逆転』


 街を見下ろす丘の上。
 大きな木の根元。
 日差しは強いけど、木陰に吹く風は涼しい。
 私は読み終えた本を脇に置いた。
「お茶ぁ……」
 頭上からの声。
 見上げると、チカが太い枝にまたがって手を差し出していた。
 私は水筒の蓋を取ると、コップの上で傾ける。
 あれ? もうないみたい。
「ええ!?」
 チカが声を上げる。
 その顔がみるみる落胆の色に染まった。
「マジでぇ……」
 枝の上に倒れ込む。
 口からタマシイ出てるよ?
「ん――、よし!」
 何がよし? イヤな予感。
「リョウコ、アイス買ってこい!」
 ビシッと私を指差す。
 えー? ヤだよ。
 またここまで登るの?
「早くして!」
 もう、ワガママだなぁ。
 ていうか、明日から学校だよ?
 宿題終わったの?
 手伝い、いるんじゃないの?
「あ、えーっと……」
 ほら、やっぱり。
 アイスとかの前に、何か言うべき事があるんじゃない?
「う……」
 チカの眉がヘの字になる。
 ちょっと涙目。噛む唇。
「て、手伝って。リョウコさん……」
 その顔いいなぁ。
 仕方ない、引き受けましょう。
 私は立ち上がると、チカに向かって両手を広げた。


(438文字)