■
『夏祭り』
裸電球。
暑い空気。
人ごみに、騒がしい声。
屋台からの匂い。
たこ焼き、焼きそば、リンゴ飴。
「ここのいか焼き、おいしいんやで!」
君は満面の笑みで、紙で包んだ薄いお好み焼きを頬張る。
「お好み焼きちゃう! いか焼き!」
はい、いか焼きです。
「金魚! 金魚すくっとき!」
あ、あたしはいいや。
「なんでやねん! いっとこ!」
相変わらず強引。いいけど。
「風船もすくっとこ! かき氷は外せんやろ!」
あたしは浴衣の裾を気にしながら、立ったり座ったり。
ねえ、似合ってるとか言って欲しい。
髪型も今日のためにすごく頑張ったんだよ?
ちょっと寂しい気持ちになる。
「あ、疲れたか? ごめん」
え? そんな事――ない。
君には笑ってて欲しいな。
腰掛けた縁石。
笑い声が通り過ぎる。
来月にはまた大きな検査。
次はいつ帰ってこれるかな……?
「ほんとごめんな」
いいの。すごく楽しかった。
「でも……」
もう! わかった!
じゃあ、ここでキスして。
それでまた元通りでしょ?
提灯の明かり。
君の赤い顔。
あたしはそっと目を閉じる。
(425字)