『夏祭り』


 裸電球。
 暑い空気。
 人ごみに、騒がしい声。
 屋台からの匂い。
 たこ焼き、焼きそば、リンゴ飴。
「ここのいか焼き、おいしいんやで!」
 君は満面の笑みで、紙で包んだ薄いお好み焼きを頬張る。
お好み焼きちゃう! いか焼き!」
 はい、いか焼きです。
「金魚! 金魚すくっとき!」
 あ、あたしはいいや。
「なんでやねん! いっとこ!」
 相変わらず強引。いいけど。
「風船もすくっとこ! かき氷は外せんやろ!」
 あたしは浴衣の裾を気にしながら、立ったり座ったり。
 ねえ、似合ってるとか言って欲しい。
 髪型も今日のためにすごく頑張ったんだよ?
 ちょっと寂しい気持ちになる。
「あ、疲れたか? ごめん」
 え? そんな事――ない。
 君には笑ってて欲しいな。
 腰掛けた縁石。
 笑い声が通り過ぎる。
 来月にはまた大きな検査。
 次はいつ帰ってこれるかな……?
「ほんとごめんな」
 いいの。すごく楽しかった。
「でも……」
 もう! わかった!
 じゃあ、ここでキスして。
 それでまた元通りでしょ?
 提灯の明かり。
 君の赤い顔。
 あたしはそっと目を閉じる。


(425字)