『願い』


 真っ暗な小部屋。
 ざらざらとした木の感触。
 隙間からぬるい水が入ってくる。
 だんだん部屋に満ちていく。
 兄たちが、必死で鳴いている。
 弟はまだうまく鳴けない。
 四角い部屋は、屋根が打ち付けられていて、私たちには出る術がない。
 殺すつもりだったのだろう。
 私たちみんな。


 部屋いっぱいに、水が溜まる。
 何度も転がって、身体中が痛い。
 私は母親を呼ぶ。
 ただ鳴き続ける。
 母親の顔は覚えていない。
 きっとその時はまだ、目が見えなかった。
 弟の鼻血が止まらない。
 だんだん息が細くなっていく。
 生きて欲しいと願った。
 私は兄たちの死骸の中で、ただそれしか出来ずに鳴き続けた――。


 どうやってここに来たのか、私は覚えていない。
 でも、ここは暖かくて、適度に広く、居心地がいい。
 私はあくびをひとつする。
 弟が、ごろりと寝返りを打つ。
 私は背中にぬくもりを感じて、じゅうたんに顔を押し付けた。


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