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『きらきら』
噴き出すスプリンクラー。
濡れた芝生。
女の子は裸足でくるくると踊る。
柔らかい髪が広がる。
白いスカートが膨らむ。
「あなたも一緒に遊ぶ?」
ここに来ると思い出す。
長く続いた戦争の終わり。
憂鬱な朝。
庭を散歩していると、薄暗い小道の先の芝生で、二人を見つけた。
一人は落ちくぼんだ目をした、背の高い男の子。
一人は白いスカートの、小さな女の子。
噴き出す水の膜の向こう側。
歌いながら踊っていた。
男の子が私に気付いて立ち止まり、女の子もこちらを見た。
痩せた輪郭を包む、ふわふわの髪。
子猫みたいに大きな瞳。
瞬間、私の心は凍り付いた。
世界の全てが、きらきらと輝いて見えた。
声をかけられ、一緒に遊んだ。
服が泥だらけになった頃、スプリンクラーの水が止まる。
女の子は足を地面に投げ出して座っていた。
「あたし、帰る。
おなか空いちゃった」
私は慌てて、自分がここに住んでいる事、食事に招待したい事を伝えた。
二人は顔を見合わせると、私の申し出を受けてくれた。
三人並んで小道を歩く。
「お兄ちゃん、おんぶ」
男の子は、何も言わずに女の子を背負った。
「あなた、手をつないであげる」
背中の上から、手のひらを差し出してくる。
そっと握ってみた。
細く、濡れた指。
その冷たさは不快ではなかった。
女の子はまた歌い出す。
木々の影。
吹き抜ける風。
明るい小道。
私たちは連れ立って歩く。
二人が何者だったのか、どんな話をしたのか、今ではもう覚えていない。
その後、二度と会うことはなかった。
あの夏たくさんの戦争孤児が死んだ。
私の心は凍り付いたまま。
今でも、あの瞬間を追いかけている。
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