『藍』


「なんかよお、めがきれいながよね」
 は? 目?
 全く意味が分からない。
 応える必要はないと判断し、俺はその子の目を見てみる。
 目なんて誰でも同じものだ。
 せいぜい違っても、色や瞼の形程度だろう。
 ましてや綺麗かどうかなど、個人の思い込みでしかない。
 その子は赤い顔で目を伏せた。
 昼休みの教室。
 後ろから二列目、窓際の席。
 そんなに転校生が珍しいのか、俺は五人の女子に囲まれていた。
「ゆうとうせいってかんじちゃ。
 みんないなかもんやき、きになるがよえ」
 気にされても困る。
 大体、どこで優等生と判断したのだ?
「いや! いいもんしちゅうちゃ!
 これなんてゆうが?」
 しきりに手を見つめている。
 でもすまない。何を言っているのかわからない。
 潮時だと思い、俺は椅子を立った。
「運動場はどっちだ?」
 数人がおずおずと窓の向こうを指差す。
 ではあの校舎の向こう側か。
 身体を動かしていないと、どうにも落ち着かない。
 俺は窓枠に手をかけると、
「覚えておけ、俺は優等生ではない」
 言い残して、窓から飛び降りた。
「アイちゃん!」
 数人の女子の声。
 俺は立ち上がり、膝を払う。
 窓を見上げて指を差した。
「もうひとつ」
 女子たちは、固い表情で俺を見つめている。
「名前で呼ぶな。気分が悪い」


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