『自動ドア』


 チサが自転車でやってくる。
 ガラス越しに指をさされた。
 俺は雑誌に目を戻す。
 チサは自転車を止め、店の扉の前まで歩く。
 開かない。
 悪態をつく。背伸びする。跳び上がる。左右にウロウロする。
 しゃがみ込んで息をととのえる。
 前後にウロウロする。もう一回跳ねる。
 やっと扉が開いた。
「ちょっと! 毎日毎日、嫌がらせなの!?」
 噛み付くような勢いで迫ってきた。
「何がだ?」
 俺は雑誌のページをめくりながら言う。
「このドアよ! いい加減変えなさいよ!」
「ほっとけ、ちびっ子。大きなお世話だ」
「そ、それが客に向かって言う言葉!?
 おじさ〜ん、お宅の店員が侮辱するんですけど。
 ていうか、売り物読んでますよ!」
「わかった! 悪かった。だまれ」
 雑誌を棚に戻して、俺はチサに近付いた。
 頭が俺の胸より下にある。
 中学生というより、小学校低学年。
 同い年とは思えない小ささ。
「いらっしゃいませ」
 俺がそういうと、チサはふんと胸をそらした。
 20分かけて店内を物色すると、菓子パンを一個カウンターに載せる。
 俺はそれをレジに通すと、代金を受け取った。
「ありがとうございます」
「じゃあね」
 うつむいたまま言って、チサはドアに向かう。
 前くらい見ようぜ。
 俺はあとを追う。
 派手にガラスにぶつかった。
 真後ろに転がりかけたのを両手で受け止める。
 軽い身体だった。
「ちょ、ちょっと! 離しなさいよ!」
 チサが真っ赤になって抗議する。
 自動ドアが音を立てて開いた。


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