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『子犬の足跡』
カギを外して玄関を開けると、マコトがしゃがんでいた。
ランドセルを背負ったまま。
胸には小さな子犬を抱いている。
「また拾ってきたのか!?」
「あ――」
上目遣いにこっちを見る。
「うん……」
犬の方もマコトの気分が移ったのか、えらくおとなしい。
「いくらなんでも、そんな飼えないぞ」
マコトは、子犬に顔をくっつけるようにしてうつむいた。
「う――」
「母さん怒るぞ、きっと」
「だ――、
だってかわいそうだったんだよ!?」
突然マコトが大声をあげた。
「あんなとこにいたら、死んじゃうよ……」
大きな目から、ボロボロと涙がこぼれる。
しゃくり上げる声。
子犬が、小さく鳴いた。
「ほんと、バカだな」
夕方の風が、庭のローレルを揺らす。
住宅街の道を、セダンが通り過ぎていった。
俺はため息をつく。
「――わかったよ。俺も一緒に頼んでやるよ」
マコトがパッと顔を上げる。
子犬を下ろすと、勢いよく抱きついてきた。
さっきまで泣いてたのは何だったんだ?
「お兄ちゃん、大好き!!」
「わかった! わかったから離れろ!」
足元に子犬がじゃれつく。
舌を出して、何かを期待するような目で、俺を見上げている。
「ほんと、仕方ないな――」
しゃがんで抱き上げると、嬉しそうに尻尾を振った。
マコトは笑いながら目を拭う。
その制服の半ズボンに、子犬の足跡が付いていた。
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