『お泊り』


船場にいいお店見つけたんよ」
 チサちゃんがベッドに飛び乗って、雑誌を開く。
 そこには簡略化された地図が描かれていた。
 私は乾かした髪を後ろでまとめて、隣に腰かける。
 チサちゃんは目を輝かせながら、その店で見かけたバッグについて話している。
 いいサイズだったとか、値段が安ければとか、柄が可愛いんだとか。
「ちょっとこのパジャマに似てるんやで」
 そう言うと袖口を持って両手を広げてみせた。
 テディベア柄の黒いパジャマ。
 少し子供っぽいけれど、チサちゃんにはよく似合っている。
「いいね」
 私がそう言うと、チサちゃんは歯を見せて、
「そうやろ? 可愛いんよ〜」
 とろけるような笑顔になった。
「あ、そうや!」
 オーバーアクションで両手を合わせる。
「お母さんが、マユちゃんのパジャマも買ってきい言うてたんやった!」
 私は今、少し大きめのTシャツ一枚。
「忘れとった、ごめんなぁ」
「いいよ、気にしてない」
「そうや! パジャマお揃いにしよ!」
 アメ村の大きなファッションビルで買ったとか、そこにも可愛い小物のお店があるとか。
 チサちゃんは、身体全体を使ってしゃべり続ける。
 私は並んでベッドに横になって、頬杖をついたまま時々相づちを打つ。
 明日のお出かけも楽しみだけど、私にはこの時間の方が大切。
 この気持ちは、きっとチサちゃんにはうまく伝わらないだろう。
 でも、それでいい。
 私は少し眠くなった頭でそう考える――。


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