『ストーカー』


 私には、ストーカーがいる。
 一月ほど前から、私の行く先々に現れる。
 気付かないふりをしているが、実はかなり困っている。
 そういう時は母親に相談しなさい、と世間の人は言うが、あいにく私には母親がいない。
 美少女は不幸なものと相場が決まっているのだ。
 昨日も電車で座っていると、隣の車両から視線を感じた。
 きっとそこに、ストーカーがいた。
 この前も学校からの帰り、ずっと尾行されていた。
 周りの人に迷惑をかけてしまわないかだけが、今の私の気がかりだ。
 今日は久しぶりのデートなので、いつもより気を付けなければならない。
 もしストーカーがデートの相手に嫉妬して、襲って来たりなんかしたら、取り返しのつかない事になる。
 駅前でデートの相手を待ちながら、私は周囲に気を配る。
 デートの相手がやってくる。
 少し年上だが、なかなかいい男だ。
 私に向かって手を振る。
 横断歩道を小走りに近付いてくる。
 その背後にストーカーがいた。
 私は息を呑む。
 危ない! 助けなければ!
 私は走りながらカバンを投げ捨て、ストーカーとの間に割り込む。
 両手を広げて行く手をふさぐ。
 走ってきたストーカーが、いきなり私を抱き上げた。
 な、何をする!?
「会いたかった――!」
 ストーカーがつぶやく。
 デートの相手、私の父親が泣いている。
「ほら、お前のお母さんだよ」
 何てことだ。
 私の母親はストーカーだったのか。
 なんて不幸なんだろう。
 やはり美少女には不幸が付き物なのだな。
 私は一人、ため息をついた。


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