『校庭の隅』


 両手をぎゅっと握る。
 アサちゃんが僕の目の前にしゃがんでいる。
「恥ずかしいよ……」
 校庭の隅。
 理科室の裏の木陰。
「だって、知りたいんでしょ?」
 アサちゃんが僕を見上げる。
「あたしだって、恥ずかしいんだから」
 いきなり僕のズボンを下ろそうとする。
「で、でもここ外だし!」
「じゃあトイレ行く?」
「え……」
 女子トイレに入るのだけはイヤだった。
「じゃあ、して」
「う〜……」
 お尻が寒い。
 身体がキュッてなる。
「そんなすぐ出ないよ」
 僕は泣きそうになりながら、アサちゃんを見る。
「もう! じゃあわかった!」
 アサちゃんがいつもの短気を起こす。
「あたしが先にするから!
 それでいいでしょ?」
 言い返せない自分がいた。
 アサちゃんがスカートの中に手を入れる。
 遠くでサッカーをする声が聞こえる。
 汗が乾いてちょっと肌寒い。
 アサちゃんがその場にしゃがみ込む。
 廊下を誰かが駆けていく。
 水の流れる音が聞こえる。
 僕は五時間目の九九のテストが気になる。


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