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『秋祭』
神輿の片付けを終えて広間に戻ると、マコトが抱きついてきた。
「コウくぅん! お疲れさま〜」
これ、どうしたの?
「お酒、飲み過ぎ」
ミコトが答える。
ああ、お神酒か。そういや、去年もこんなだったっけ。
いつもは静かな玄関脇の広間。
大人たちはお酒を飲んでる。
今年の秋祭りもこれで終わり。
後は年末までいつも通りの日々。
僕とミコトは半ば引きずるように、奥の座敷までマコトを運んだ。
「コウくん、らめぇ〜」
子供のくせに何て声を出すんだ。
やっと布団に寝かせると、食事に手をつける。
ミコトは手伝いのために着せられた巫女装束のまま、向かいにちょこんと正座する。
よく似合ってる。
僕が言うと、彼女はそっと目を伏せた。
いつもマコトの後ろにいて、自己主張するのを見た事がない。
綺麗だよ。
ミコトは困ったように眉を寄せる。
縁側の外に目をやり、袴の裾をギュッと握った。
僕はマコトの寝姿を確かめると、その白い手に自分の手を重ねる。
ミコト――
彼女は激しくかぶりを振ると、僕の口を両手でふさいだ。
「やめて」
その目から涙がこぼれる。
畳に置いた、僕の手に落ちる。
「あたしは、お姉ちゃんが好きなの」
遠くに大人たちの声が聞こえる。
僕は動けないまま、ミコトの涙の熱さを知った。
視界の端で、マコトが枕に顔を埋めていた。
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