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「チバは他にもメル友いるの?」
「いるよ」
「何人くらい?」
「ふたりかな。アイリは?」
「アイリはわかんない」
「そんないるんだ?」
「でも、いちばんメールしてるのはチバだよ」
「僕もアイリが一番かな」
「チバ、何人くらい会った?」
「三人かな。この前のひといれて」
「29才のひと?」
「そう」
「いい感じの人いた?」
「むずかしいね。会うとダメになっちゃう」
「そなんだ」
「アイリは何人くらい会ったの?」
「数えてないよ。わかんない」
「いい人いた?」
「カッコいい人はいたよ。
 でもヤバいのもいる」
「そっか〜」
「すごい見た目なのに、抱きたいとか言ってくるんだよ?
 困る」
「あはは! 襲われそうだった?」
「そうじゃないけど、仕方ないから一緒に歩いてるだけなのに、手握ろうとしてきたりするの」
「怖かった?」
「キモかった」
「キモい時はどうするの?」
「適当に帰るよ。門限とか言うの」
「それで帰してくれる?」
「けっこう帰してくれるよ。すぐメール来るけどね」
「そういうのはどうするの?」
「無視する」
「返事しないんだ?」
「うん。だってキモいじゃん?」
「チバもキモいかもしれないよ?」
「チバはたぶん平気」
「なんで?」
「だってナンパとかしてるでしょ?
 見た目だいじょうぶってことじゃん」
「ナンパと見た目は関係ないんだよ?」
「チバは平気そう。
 話すとけっこうわかるよ、どんな人か」
「そんなもんかな?」
「そんなもんだよ」
「メル友と初めて会ったのっていつ?」
「去年かな」
「夏?」
「うん、夏」
「けっこう覚えてる?」
「暑かったからね」
「夏は暑いもんだよ。
 アイリ、知らなかった?」
「初めての人だったんだよ」
「初めて?」
「うん」
「えっち?」
「うん」
「カッコいい人だったんだ?」
「高校生かな。おもしろい人だったよ」
「付き合ったの?」
「わかんない」
「好きだった?」
「わかんない」
「好きだから会ったんじゃないの?」
「会う前はよくわかんなかったよ。
 メールしたら会うもんだって思ってた」
「まちがってた?」
「会わなくてもいいよね、べつに」
「まぁね」
「………」
「チバと会ってみる?」
「………」
「うそだよ?」
「チバのこと好きだよ。
 ほんとはこんな長く続くと思ってなかった」
「うん」
「えっちはね、ダメなんだよ」
「ん?」
「えっちするとダメになっちゃうの」
「そなの?」
「えっちするまでは普通だったのに、えっちしたらほんとに好きになっちゃうんだよ。
 好きな気になっちゃう。
 そしたら、そのあと会えなくなった時にすごくさみしいんだよ?
 だから好きな人とはしないとよかったっていつも思うよ」
「アイリ、その人好きだったんだ?」
「………」
「………」
「あたし、ずっと待ってたんだ。バス停のとこでね
 あっつくて、死んじゃうかと思った。
 でもその人来なかったんだ。
 4時間もそこにいたんだよ? すごくない?」
「メールしなかったの?」
「したよ」
「返事は?」
「体調悪いって返ってきた」
「電話は?」
「した」
「出た?」
「出なかった。体調悪いってメール来た。
 その人の家電にかけてもお母さんしか出なくて。
 体調悪いから電話には出れませんって言われるの」
「ほんとに体調悪かったんじゃない?」
「その前からずっとメ−ルしてたの」
「でも返事こなくて」
「返事こなかったんだ?」
「約束の日に一通だけ来たの」
「体調悪いって?」
「……そう」
「そっか……」
「でも約束してたんだよ?
 今度はちゃんとデートしようって」
「デートしなかったの?」
「だって一回しか会ってないもん」
「そうなんだ」
「その人と初めて会ったときにね、手紙もらったんだよ。
 アイリのことずっと好きだよって書いてあって。
 あたし、ほんとにバカだったんだね。
 ちょっとカッコいい人だったから、嬉しくなっちゃって。
 そのままホテル行っちゃったんだよ。
 これでずっと愛してもらえるって思った」
「………」
「チバはアイリのこと好きだよ?」
「うん。知ってる」
「知ってるんだ?」
「あたしもチバのこと好きだよ」
「チバはアイリのこと、ずっと好きだよ?」
「それはどうでしょう?」
「………」
「今もその手紙持ってるんだ」
「愛してるから?」
「たぶんちがうよ。もう忘れた」