『背丈』


 裏山を抜ける近道。
 車の付けた轍の上を、私達は歩く。
 落ち葉が足元で、乾いた音を立てる。
 タカヤは軽快な足取りで前を行く。
 手にした枝で、野草を払う。
 その仕草も、面立ちも、まだ子供にしか見えない。
 制服なんて袖が余ってる。
 家が隣同士で、小学校の時から帰るのはいつも一緒。
 だけど――。
「――は、ちっちゃいな」
 さっきの声を思い出した。
 赤レンガの昇降口。
 私は下駄箱の陰から、女の子が男の子の腕にぶら下がるのを見た。
 何故か、当たり前の光景に見えた。
 お似合いのカップルだとか、なんか、そんな感じ。
「私の背が、もっと低ければな……」
 思わず呟いた。
 タカヤが、立ち止まって振り向く。
「なんで?」
「だって、その方が女っぽいでしょ」
「そうかな?
 お姉ちゃんはそのままでいいと思うよ」
「可愛くないよ」
「十分、可愛いよ」
 ……子供に言われても、嬉しくないもん。
「タカヤのバカ」
「意味がわかんないよ?」
「私の悩みはわかんないってこと」
 ちょっと首をひねると、タカヤはそばにあった大きめの石に飛び乗った。
 それでやっと、目線の高さが同じになる。
 子供の笑顔で私に右手を差し出した。
「お姉ちゃん、僕と付き合ってよ」
 そんなことばっかり覚えて。
 私はその手を軽く払うと、
「大きくなったらね」
 言って一歩を踏み出した。


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