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『嫌い』
夕日に向かって全力でブランコをこいだら、赤とんぼが鼻に当たった。
―――!!
あたしは思わずバランスを崩す。
一番高い所で、落ちそうになった。
必死でブランコに掴まる。
後ろ、前、後ろ――と揺れて、やっと地面に足がついた。
こ、こわかったぁ。
まだ胸がどきどきしている。
「あはははは!」
ブランコに座ったまま、ぜひぜひ言ってると、妹が笑いながら抱き付いてきた。
思わず身を引く。
まだ震える手で、妹の肩を突き飛ばした。
予想より大きなリアクションで、妹は地面にお尻をつく。
ちょっと強すぎたかな……?
いやいやいや、これぐらいやんないとへこたれないんだ、コイツは。
あたしは妹が嫌い。
どこ行ってもついてくるし、あたしの人形は取っちゃうし、うざいって言っても聞かないし。
だから、キビしくしてやることに決めたんだ。
妹もあたしを嫌いになるように。
「あははははは!」
妹は笑いながら起き上がると、またあたしにくっついてくる。
あたしは立ち上がり、もう一度妹を突き飛ばそうとした。
その笑顔に止められた。
「おねえちゃん、だいすきー!」
大好き? あたしが?
「だいすき!」
どうして?
「だいすきだからー!」
会話にならない。
でも、何でだろう?
その笑顔が、ちょっとにじんで見えた。
あたしは妹の手を握ると、家への道を歩き出す。
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