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『雨の日』
雨の日のにおいは嫌い。
甘くてベタベタしてるから。
雨の日の音も嫌い。
ブツブツといつまでもしつこいから。
一人バス停に立っていると、誰かが隣に立った。
濡れたズボンに、合服のベスト。
傘を傾けると、リョウが雨に濡れながら、不機嫌そうな顔で道路を見つめていた。
一人なんだ。珍しい。
ウワサには聞いていた。
あの子と別れたってこと。
泣いているあの子を、見たような気もする。
「なんだよ?」
いつのまにかリョウが私を見ていた。
「別に」
私はそういって、傘の下に隠れた。
「わかんねぇ女」
リョウが呟く。
その言葉は、前より弱気に聞こえた。
「――わかんないのは、私?」
弱気に付け入るようなつもりはなかった。
気付いたら声が出ていた。
「何だよ?」
リョウの動揺を感じた。
責められるだけ責められて、何も言わなかったというリョウを、私は誇りに思っていた。
「慰めてあげようか?」
私の言葉。
リョウの前髪から落ちる雫。
目の前の道路を車が通り過ぎる。
甘くてベタベタしてて、ブツブツしつこい雨の日。
私はリョウに傘を差し出す。
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