『大人の階段』


 怖いんなら、やめとけばいいのに。
「いいのー! するのー!」
 俺のベッドに座り、ハナは駄々をこねる。
 短いお下げがパタパタと揺れる。
 先生に怒られるぞ?
「い、いいもん!」
 母さんも怒るんじゃないか?
「もうー! 自分はしてるくせに!」
 俺はもう学生じゃないからな。
 でも、中学生はマズいんじゃないか?
「いいからしてー!」
 仕方なく、俺はハナのあごに左手を添えた。
 ちょっとガマンしろよ?
「う、うん……」
 ハナが目を閉じる。
 狙いをつけて――、
 パチンという音。
「い!」
 う、動くなぁ!
「いいたぁいぃー!!」
 だから言っただろ?
 泣くくらいならやめとけばいいのに。
 血は……、大丈夫みたいだな。
 俺はハナから身体を離す。
 その瞬間、ベッドに何かが落ちた。
 あ。
「あ? あってなに!?」
 外れた。
 ち、血が……、ポタポタと……。
「ええええ!?」
 や、やばい!
 もっかい付けるしか。
 俺はそれを拾い上げると、ハナの耳をタオルで拭きながらもう一度挿し直した。
「いたいいぃー!」
 う、後ろの穴が見つからない……。
 なんでピアスを開けるくらいで、こんな血みどろになってんだ?
 においと見た目とぬるぬるした触り心地。
 うう……。
 このにおい……。
 気分が悪くなってきた……。
 トイレ行っていいか?
「と、途中で置いてかないでよー!」
 そりゃそうか……。
 めまいを感じながら、俺はハナの愚痴を遠くに聞いた。


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