『引越し』


 ぎざぎざの葉っぱが、膝の上に落ちる。
 見上げると、木の葉の隙間から細い光。
 大きな石のベンチに、僕たちは並んで座っている。
 ちづ姉ちゃんは両足を前に伸ばして、行儀の悪い姿勢。
「――引越し、決まったんだ」
 僕は驚いてその顔を見つめた。
「だからね、ここで会うのは最後」
 来年から大学生のちづ姉ちゃんは、引越し先を探していた。
 でも、こんなに早いなんて。
「もう、会えないの?」
「そんなことないよ」
「だって、引越しするんでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
 沈黙。
 小さな鳥が数羽、境内を跳ね回っている。
 木漏れ日をあおいで、ちづ姉ちゃんが言う。
「きっと、また会えるよ」
 何だか気楽な声。
「わかんないじゃん!」
「……わかるよ」
 ちづ姉ちゃんは笑っていた。
 僕はそれが悔しくて、思わず立ち上がる。
 背を向けると走り出した。
 晩御飯もすっぽかして、自分の部屋でベッドに突っ伏していると、部屋の扉がいきなり開いた。
 ……お母さんか。
 無視していると、頭をこずかれた。
「引越してきたよ」
 聞き慣れた声。
 驚いて顔をあげる。
 ちづ姉ちゃんがそこにいた。
 僕はまた、顔を布団に押し付けた。
「ねぇ、嬉しくないの?」
 ちづ姉ちゃんがベッドに腰掛ける。
 そんなの言えないよ!
 布団に突っ伏す僕。
 その頭をちづ姉に撫でられた。


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