『約束』


 カーテンが開かれる。
 朝日が部屋を満たして、俺は片方ずつ目を開く。
「おはよ!」
 白い光の中。
 早野はいつもの笑顔を見せた。
 薄い桃色の制服。
 検温用の体温計を枕元に置くと、
「ごはん、もう少し待ってね」
 そう言って病室を出て行った。
 俺は両手で身体を支え、車椅子に移動しようとする。
 何でも一人で出来るように。
 ハンドルに体重をかけた瞬間、車輪が滑って俺はバランスを崩した。
 早野が慌てて部屋に戻ってくる。
「だ、大丈夫?」
 俺を抱き上げようとする。
 咄嗟にその手を払った。
 早野は優しい。
 でも、一人で動くことも出来ないなんて。
 俺は自分で自分がイヤになる。
 早野がもう一度、俺の身体に腕を回した。
 上半身を起こして、ベッドの足にもたれるような姿勢。
「――ずっと、一緒にいるよ」
 仕事だからだろ。
「違うよ。約束、したもんね」
 早野は、俺の額に自分の額をくっつけた。
「ジュンのために、この仕事を選んだんだよ」
 窓の外から、子供たちの声。
「今度は、私が守ってあげる番」
 消毒液の匂い。
 早野の匂い。
 俺はきっと忘れない。


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