『星座の名前』


 たんぼの中の一本道。
 私は濡れた地面をよけながら歩く。
「あれは?」
 マコトが夜空を指差す。
「えーと、はくちょう座かな」
 私は、先生が教えてくれた星座の名を答える。
「じゃあ、あれ」
「えっと、さそり座?」
 首をかしげた瞬間、つまづいた。
 先生は星座の名前も、算数の公式も知ってる。
 でも、私の怖がりの部分は知らなかった。
 二人きりの教室にマコトが入ってきた時、私は息が出来なかった。
 土の地面。
 長い髪が夜空をさえぎる。
 私の手は汚れていた。
 マコトがしゃがみ込んだ。
「……ごめんね」
 私はそうつぶやく。
 どうして、マコトじゃなかったんだろう?
 稲の葉がざわざわと音を立てる。
 マコトがぎこちなく私の手を握った。
「何も、変わらないから」
 女の子みたいな声。
 でも、はっきりと強い声。
 突然、胸に熱いものが込み上げ、涙となってあふれた。
「あ、れ……?」
 マコトがそっと私の頭を抱く。
 恐怖とか、温もりとか、誰かを好きな気持ちとか、私の抱える訳のわからない全部が、次々にあふれては落ちた。
 私はマコトの肩に頭を押し付けたまま、声をあげて泣いた。


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