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『小さな手』
フローリングを彩る、夕方の日差し。
肌に冷たい風。
ベッドの上でシホが寝返りを打つ。
私は読んでいた本から目を上げた。
「さ、さむいぃ……」
「起きたか」
立ち上がって窓を閉める。
シホが布団から顔をのぞかせた。
「怖い夢、見た……」
「ん?」
「なんかね、小さな船に乗せられてね、すっごい寒くてね……」
鼻をぐすぐす言わせながら、涙目で訴える。
「――そしたらそれ、ほんとは大きなワニだったの!」
「すごい夢だな」
「怖かったよぉ……」
「おかゆ、出来てるぞ」
シホは眉をしかめて、横を向いた。
「……食べたくない」
「食べないと薬も飲めんぞ」
「お薬やだぁ!」
「そうか。じゃあ、ケーキも無しだな」
「ケ、ケーキ!?
ケーキあるの?」
「でもシホ、食べれないだろ?」
「食べるよぉ!」
「じゃあ、おかゆも食べるか?」
「うぅ〜食べる……」
「よし、いい子だな」
私は髪を後ろでまとめながら、椅子を立つ。
「手――、握ってよぉ」
潤んだ目で見上げるシホ。
口がアヒルみたいになってる。
そっと小さな手を取る。
「気持ちいいよ」
「……ほんとに子供だな」
「そんなこと――ないもん!」
何故だか少し、ドキドキした。
いつもシホをからかう男子の気持ちが、少しだけわかった気がした。
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