『光』


 暗闇の中。
 ぼんやりとした光が見える。
 私はそれを目印にして、君との距離を推測する。


 郊外の大学。
 研究室の窓を開けると、闇に染まる緑の先に、いくつかの明かりが見える。
 学生寮の窓。
 私はその光をひとつひとつ目で追っていく。
 夜の風が、煙草の先から灰をさらっていった。
「いつも遅くまで、ここにいるよね」
 先週、君が研究室に来た。
「知っているのか?」
「明かりが見えるんだよ」
 君は細い腕を上げる。
 窓の外を指差した。
 正面に見えるのが、自分の部屋だと教えてくれた。
 一年の時、英語の授業が一緒になった。
 それ以来、会えば話をする仲だ。
「ここで何をしてるの?」
「インターネット」
「ウソでしょ?」
「本当。サーバーをそれぞれのクライアントで持つ事で、コストを下げて仮想世界を構築する――」
「あー、わかんない」
 君はお手上げのポーズで、マシンの間を歩く。
 机の上に手を這わせ、私を横目に見た。
「女の子は、研究しないの?」
 たった一言。


 暗闇の中。
 ぼんやりとした光。
 私の思考は、君を追い続ける。
 今日も研究は進まない。


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