『傷』


 君は私を、窓際に立たせる。
 二人きりの部屋。
 窓は大きく開いていて、少し肌寒い。
 夕日に背を向けて、私は一枚ずつ着ている物を足下に落とす。
 君はその動きを、息を止めて見ている。
「全部、覚えてたい」
「……綺麗じゃないよ?」
「綺麗だよ」
 私は少し、前屈みになる。
 髪が私の肩からこぼれる。
 片足ずつ、脱ぎ取る。
 腕を下ろして立つ。
 君がゆっくりと息を吐き出す。
「ありがとう」
 外からの風が、カーテンを揺らして、私は小さく悲鳴をあげる。
 バランスを崩しそうになった私を、君が抱き止めてくれた。
 暖かい身体。
「――触りたい」
 君が耳元で囁く。
 私は、かすかにうなずいた。
 背中に、君の指先が触れる。
 私は目を閉じる。
 そっと。
 ――少し強く。
 君の指は腕をなぞり、身体を伝う。
 傷跡が、滑る君の指先に、引っかかりを残す。
 違和感を与える。
 君は何度も確かめるように、その違和感を撫で続ける。
 私は、泣きたい気持ちになる。
 傷跡の醜さを思い出す。
 薄く目を開く。
 不意に君の唇が、私の傷跡に触れた。
 その暖かさに、私はもう一度目を閉じる。


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