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『海と空の間』
マングローブの林を抜けると、輝くような青。
視界いっぱいの、海と空。
砂浜にナミの足跡。
水着の背中。
波打ち際に走っていく。
私と弟は、その後を追う。
澄んだ水が肌に冷たい。
ナミは浅瀬にしゃがんで、手で水をすくいながら言う。
「二人、競争して下さい」
「競争?」
弟が問う。
「ナミも一緒だよな?」
私の言葉に、ナミは小さく首を振った。
「私は女の子なので、遠慮します」
澄ました表情。
肩までの髪がさらさらと揺れる。
「やる?」
弟が首を傾げる。
私は苦笑した。
競争。
私たちには馴染みのない言葉。
いや、もしかしたら、本当はずっとしているのかもしれない。
毎日三人。
すごく近いけれど、これ以下には縮められない距離。
いつまでこんなふうに笑えるだろう?
……きっと、全部忘れるんだよ。
「いつまでも忘れません」
不意にナミが、私の顔を覗き込んだ。
背を向けて駆けていく。
波が、ゆっくりと打ち寄せる。
太陽が海面に乱反射する。
「ようい――!」
海と空の間。
ナミが、白い手を上げた。
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