『弱点』


 ロフトへと続く、急な階段を登る。
 チトセが背中を向けて、あぐらをかいていた。
 一心不乱にジグゾーパズルを組み立てている。
 私が登ってきた事にも気が付かない。
 天窓からの日差しが、チトセの上に落ちている。
 冷房の届かないこのロフトは、そりゃもう、かなり、暑い。
 そっと近付く。
 ホルターネックの背中にアイスの袋をくっつけた。
「ひゃああ!!」
「あはははは!」
 チトセが泣き出しそうな顔で振り向く。
「お姉ちゃん! 何するのよぅ!」
「ん」
 持ってきたアイスキャンデーを、目の前に差し出してみせた。
「う、ありがと……」
「それ、面白い?」
「すっごい大変――」
 チトセはアイスをくわえて、パズルの方に身体を直した。
 無防備な背中が目の前。
 私は低い天井に手をかけて、上からのぞき込む。
 くわえたアイスキャンデーから、一滴しずくが垂れた。
「ひゃあああ!!」
「あはははは!」
 チトセの弱点は知っている。
 彼女の背中に落ちた白いしずく。
 私はそれを指先で拭き取り、口に含んだ。


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