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『藤の葉』
僕は竹ボウキを両手で構えると、ジンに殴りかかった。
ジンは金バサミとちり取りをクロスさせて受ける。
集めていた葉が宙に舞った。
「なにしてんの!?」
キサが小さなホウキを持って駆けてくる。
もう一度、僕が振りかぶった時、ジンはちり取りで地面を大きく引っかいた。
もうもうと砂ぼこりが舞い上がる。
「せっかく綺麗にしたのに!」
キサが両手で目をおさえる。
泣き声をあげる。
僕らの動きが止まった。
「お、俺は知らないからな!」
ジンはそういうと、一瞬僕の方を見た。
そのまま後ろを向いて走り去ってしまう。
取り残された僕は、タイミングを失ってその場で固まった。
「……だいじょうぶ?」
声をかけた。
キサは、涙目のまま僕を見る。
「――ジンは?」
「行っちゃったよ」
思わず目をそらした。
散らばってしまった藤の葉が、風に音を立てる。
沈黙に耐え切れず、ホウキで集め始めた。
キサも同じように掃除を再開する。
少しすると、周囲の葉が一箇所に集まっていた。
「カイ君は優しいね」
キサがうつむいたまま、ポツリと言った。
「ジンもね、前は優しかったんだよ?」
――素直になれないだけだよ。
僕は言葉を飲み込む。
なんと言えばいいのかわからず、結局下を向いた。
「カイ君は優しいね、やっぱり」
レンズの奥の目が悲しげに笑う。
藤棚からの木漏れ日が、キサの制服に落ちていた。
僕は知っている。
その目が僕に向くことはない。
でも今日も、その目は切ないくらい綺麗だった。
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