『甘いお菓子』


「ねぇ、先生」
 お姉ちゃんが先生を呼ぶ。
 きっと、あれを見せるためだ。
 先生がお姉ちゃんの机に近付く。
 笑い声。
「上手だね」
 私はそっと、二人を盗み見る。
 似顔絵が描かれているはずのノートを持って、先生は笑っていた。
 お姉ちゃんと目が合う。
 私は慌てて鉛筆を握り直す。
「でも、ちゃんと勉強してくれないと、僕が叔母さんに叱られちゃうよ」
「はぁい」
 夜の七時半。
 私たちの部屋。
 先生はまた、二段ベッドに腰掛けた。
 そんな先生に私は振り向いて告げる。
「今日お母さん、プチフール買って来てたよ」
 先生が目を見開く。
「マジで!?」
 口元がだらしなくゆるむ。
 完全に子供の笑顔になる。
 八重歯が下唇にかかっている。
 なんていうか、――可愛い。
 先生の顔を見つめていると、またお姉ちゃんと目が合った。
 私に肩をすくめて見せる。
 もし二人が同時に好きと言ったら、先生はどんな顔をするんだろう?
 同じ笑顔で笑うのかな?
 私は先生の頬を、優しく撫でてみたい。
 そして、つねってみたくなる。


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