『抱っこ』


 6年ぶりに会った幼なじみは、自分の足で歩けなくなっていた。
 驚いて立ちすくむ私に、車椅子が近付いてくる。
「そんなに驚いたか?」
 昔と同じ愛想のない口調。
 私は慌てて首を振り、その後、頷いた。
「――すごく、驚いた」
「大人になっても、天然は治ってないんだな」
 いつもの憎まれ口。
「ジュンも、口の悪いところは変わってないのね」
 眉を寄せると、ジュンは笑い声をあげた。
 木立を吹き抜ける風。
 葉擦れの音。
 私は車椅子を押しながら、緩やかな坂を上っていく。
「ごめんな」
「気にしないで。ここにしようって言ったのは私だし」
 公園のある小高い丘。
 小学校からの帰り道、毎日ここで待ち合わせをした。
 ほとんどの場合、年下のジュンは先に着いており、待たせる形になった。
 私がそれを謝ると、
「姉ちゃんは、ボクが守るんだ」
 いつもそう言って、ジュンは前を歩き始めるのだった。
 坂道の終わり、公園に続く入り口。
 そこはちょっとした階段になっていた。
「こんなんだったっけ……」
 ジュンは怒ったような表情で階段を見つめる。
 私はそんなジュンに、正面から抱きつく。
「あ! ちょ――!」
 抱き上げる。
「バカ! やめろ!」
「私がこうしたいの」
 暴れるジュンを抱いたまま、私はゆっくりと階段を上る。
 低い木々のアーチを抜けると、一気に視界が開けた。
「ねぇ、戻ってきたよ」
「――ああ」
「また、守ってくれる?」
「ばーか、当たり前だろ」
 私は腕の中のジュンと唇を重ねた。


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