『好き』


 手羽先のオーブン焼き。
 手で持って噛みちぎる。
 筍と厚揚げのみそ炒め。
 一切れが大きいな。
 箸で口に運ぶ。
 焼きイカ
 焼きイカ? 弁当だぞ?
「いいじゃない。文句言わずに食べなさいよ」
 テーブルに身を乗り出して、サキが言う。
 お前は食べないのか?
「あたしはいいの」
 昨日は手作りベーグル、一昨日は軟骨の唐揚げ。
 デザートはラスク、ビスコッティ――。
 微妙な料理ばかりだな。
「じゃ、明日はカンパンね」
 ……お前がそうしたいなら。
 私は昼食代が浮いてありがたい。
「――あたし、歯医者さんになりたいな」
 歯医者? お前は歯医者が嫌いではなかったか?
「嫌い」
 よくわからん。
 まぁ、私には虫歯がないからな。歯医者に興味はない。
「そこがいいのよね」
 いい?
「こっちの話」
 雲が切れて、中庭の陽射しが強くなる。
 ごちそうさま。
 私は意識的にニッと笑ってみせた。
 サキの顔が真っ赤になる。
 単純なヤツだな。
「あなたは黙って食べてればいいの!」
 口を尖らせてそっぽを向いた。


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