■
『好き』
手羽先のオーブン焼き。
手で持って噛みちぎる。
筍と厚揚げのみそ炒め。
一切れが大きいな。
箸で口に運ぶ。
焼きイカ。
焼きイカ? 弁当だぞ?
「いいじゃない。文句言わずに食べなさいよ」
テーブルに身を乗り出して、サキが言う。
お前は食べないのか?
「あたしはいいの」
昨日は手作りベーグル、一昨日は軟骨の唐揚げ。
デザートはラスク、ビスコッティ――。
微妙な料理ばかりだな。
「じゃ、明日はカンパンね」
……お前がそうしたいなら。
私は昼食代が浮いてありがたい。
「――あたし、歯医者さんになりたいな」
歯医者? お前は歯医者が嫌いではなかったか?
「嫌い」
よくわからん。
まぁ、私には虫歯がないからな。歯医者に興味はない。
「そこがいいのよね」
いい?
「こっちの話」
雲が切れて、中庭の陽射しが強くなる。
ごちそうさま。
私は意識的にニッと笑ってみせた。
サキの顔が真っ赤になる。
単純なヤツだな。
「あなたは黙って食べてればいいの!」
口を尖らせてそっぽを向いた。
(404文字)