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秋:


:また迷っちゃったみたい
:アイリじゃん、ひさしぶり〜。
 迷ったの?
:チバじゃん!
 びっくりした!
 今新宿だよ
:メアド間違ったの?
 まぁいいけど!
:チバ新宿わかる?
 待ち合わせ場所わかんないんだよ
 困ってるの
:なんとなくはわかるけど。
 どこに行きたいの?


「とりあえず駅に戻りたいの」
「今どのへん?」
「それがわかったら迷ってないよ」
「まぁそっか」
「チバ、アホだから頼りになんないかなぁ」
「失礼ですよ?」
「ほんと困ってるの」
「人に聞いてみた?」
「なんか怖いじゃん」
「普通の人なら平気だよ。
 女の人ならよくない? いっぱいいるでしょ?」
「いるけど」
「けど?」
「お水って感じの人ばっか」
「キャッチのお兄さんよりは安全だよ、きっと」
「こっちじゃないみたい」
「人が来るほうに行ってみたら?」
「うん」
「何が見える?」
「なんだろ? 電気屋さんとか」
電気屋さんいっぱいあるからなぁ」
「あ、ボウリングがあるよ」
「ボウリング……。どこだろ?」
「チバ、頼りな〜い!」
「アイリ、失礼ですよ?」
「あんま時間ないんだよ〜」
「そなの? 待ち合わせの人に電話したら?」
「出ないの」
「メールは?」
「したけど、見てるか不安。
 あの子、メル友多すぎだから」
「あの子?」
「うん。カリンだよ」
「カリン?」
「チバ、カリン知らない?」
「う、誰だっけ?」
「前に大学生のうちで電話したじゃん。あの時の」
「大学生?」
「うん。あの子、えっち始めちゃって困ったの」
「同じ学校?」
「ちがうよ。アイリ、学校ではいい子ちゃんなんだってば」
「いくつの子?」
「にこうえ」
「春だっけ?」
「そだっけ?」
「なんとなく思い出した。
 その子のメル友に会いに行ったんだっけ?」
「そうそう! それがカリン。
 よく覚えてたね〜! すごいよチバ!」
「チバはすごいんだよ。当たりまえ」
「当たり前じゃないよね。
 チバはどっちかというとアホです」
「いま道に迷ってる子はアホじゃないの?」
「アイリはいいの」
「いっつも迷うんだね」
「そんなことないもん」
「今日はその子と待ち合わせ?」
「うん。一緒に人に会うみたい」
「人?」
「うん。バイトのね、えらい人だって」
「アイリ、バイトしてたっけ?」
「してるよ〜! 前に言ったよ」
「でも、いつも忙しそうだったじゃん」
「いつでも出来るバイトだからね」
「いつでも出来るの?」
「うん」
「学校でも?」
「うん」
「なんだろ? わかんない」
「ケータイ代はね、ケータイで稼ぐんだよ」
「なにそれ?」
「えらい人が言ってたんだって。
 カリンが言ってた」
「バイトってカリンもしてるの?」
「してるよ。カリンに教えてもらったもん」
「カリン、学校行ってるひと?」
「行ってないと思うよ。なんで?」
「そのバイト、だいじょぶ?」
「だいじょぶだよ?
 もう半年くらいしてるし」
「そんな長いんだ」
「でもね〜もっといいバイトあるって言うからさ、今日は来たんだよ」
「アイリ、ほんとだいじょぶ?
 行かない方がよくない?」
「だいじょぶだよ。
 カリン、バカだけどちゃんと考えてくれる人だから」
「………」
「そういえば、この前すごい人いたんだよ?」
「すごい人?」
「うん。
 月四十万でこれからも会ってほしいって言われたの」
「四十万!」
「四十万だよ?
 おっさん金持ってるよね。すごくない?」
「それ、なにするの?」
「援助じゃない?」
「アイリ、援助してるの?」
「………」
「………」
「あたし、言ってなかった?」
「知らなかったよ」
「そんな気はないんだよ? あっちが勝手に払うだけ」
「ダメな大人ばっかだね」
「ダメな大人ばっかだよ?
 そんなのチバも知ってるでしょ?」
「出会い系?」
「うん。アイリ、年上好きだからかなぁ?」
「でもおっさんはやでしょ?」
「そんないやじゃないよ。いい人もいるよ?」
「でもよくないことだよ?」
「わかるけど――。
 普通に会うじゃん?
 仲良くなって。そしたらそうなっちゃうんだよ」
「………」
「あたしのせいじゃないよ?
 えっち、好きじゃないもん」
「好きじゃないんだ?」
「うん、不感症らしいよ。濡れないの」
「やっぱそれよくないよ。
 次からは断るようにしな」
「……なるべくそうする」
「うん」
「あ、駅かも。看板いっぱいある」
「あ、駅前っぽいね」
「じゃあ、行ってくるね」
「やばい時は逃げるんよ?」