『ライバル』


 ユミに告白した。
 昼休み、音楽室からの帰り。
 リカと廊下を歩いてるところに、突撃した。
 ユミは顔を真っ赤に染めて、リコーダーやら教科書やらを足元に落とす。
 予想通りのリアクションに、俺は思わず笑ってしまった。
「わ、笑うとこじゃないぃ!」
「いや、だってさ……」
「だ、大体あれだよぉ!
 わわたし、目悪いし、忘れ物おおいし、運動できないし、ままともにしゃべれないし――!」
「そこがいいんじゃん」
「そこがいいんだ」
 リカと俺の声が揃った。
「リ、リカちゃんまで、ななに言いだすの!」
「わかってないわねぇ。
 その、隙だらけで一人じゃ何も出来なさそうなところが、保護欲を掻き立てられるんじゃないの!」
 手に持ったユミのリコーダーを振りながら、リカが力説する。
 俺もそれに加わった。
「そうだぞ。いつもどこ見てるかわからない目とか、今どきべっ甲縁のメガネとか、自分じゃ気付いてないかもしれないが、かなりの逸材だぞ?」
「そうね、言ってみれば『ダメ萌え』みたいな感じかしら」
 腕を組んでリカはうんうんと頷く。
 それはちょっと違う気がする。
「とにかく、俺と付き合ってくれ」
「それはないわね」
 リカが速攻で否定する。
「ユミのダメぶりを一番近くで見る権利は、誰にも譲れないわ」
「意味がわからん」
「ユミは私のものなの。だから、あなたの告白は受け容れられないってこと」
「ふざけるな。俺だってユミが忘れ物をして借りに来たり、こぼしたジュースを一緒に拭くといったダメぶりを共有したい」
「ありえないわ。それは両方とも私の占有行為よ。
 他にも、そうね、下校中に無くしたカバンを一緒に探し歩くとか、何もないところで転んだユミを助け起こすとか、そう言った行為も――」
「ふ、二人ともだいきらいぃ!
 ばかぁあああ!!」
 こぶしを握ってぷるぷる震えていたユミは、突然そう叫ぶと、廊下を走り出した。
 泣いてるにしても、目くらいは開けた方がいいと思うぞ
 ――って。
 言ってるそばから、何もないとこで転ぶ。
 地面に突っ伏して、えぐえぐ泣いている。
「だいじょうぶか!?」
「だいじょうぶなの!?」
 どっちが先にユミを助け起こすのか。
 俺とリカは同時にスタートを切った。


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