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『僕らの冒険』
授業が終わった後の、塾の階段教室。
いくつかのグループになって、みんな雑談してる。
昨日のドラマの展開とか、マンガの主人公の行方だとか。
もらったプリントをカバンに詰め込むと、僕は立ち上がる。
ナエの席に近付くと、ゲーム機の画面を覗き込む。
「レベル上げ?」
「そう」
「この先のボス、強いもんね」
ナエは無言で頷いた。
先週出たRPG。
僕らは半年前から発売を待っていた。
ずっと貯金して、先週一緒に買ってきた。
ナエと初めて話したのも半年くらい前。
やっぱりこの教室だった。
ゲームに夢中の僕の前に、いつの間にか立っていた。
顔を上げると、持っていたゲーム機の画面をこちらに向けた。
「これ――」
僕は画面を見て言う。
「あ、同じだね」
「お店……小さい」
「ああ、これは誰かに買ってもらわないと大きくなんないよ」
ナエはゲーム機を自分の方に向けた。
「そう……」
その顔が、少し曇ったように見えた。
ゲーム機を持ったまま立ち去ろうとする。
「僕が――」
予想より大きな自分の声に、僕は驚いた。
「君の店で買い物しようか?」
ゆっくり振り返ると、ナエは僕の隣の席に座った。
僕らは並んで、ゲームをプレイする。
ナエは妖精の村の近くでレベル上げを繰り返す。
僕はその少し先の洞窟で、炎の怪物と戦う。
授業の終わった教室で、三十分だけ一緒に冒険をする。
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