『トンネル』


 明るい市街地を抜けて、山の中に入る。
 いくつかのカーブを抜けると、トンネルが見えてきた。
 建設中の新道路開通時には、閉鎖が決まっている、古いトンネルだ。
 天井が低く、道幅も車がやっと行き違える程しかない。
 入り口に差し掛かり、風の音が変わった。
 俺はステレオのボリュームを落とす。
「ここで死んだ男の子がいるらしいぜ」
「し! しん――!」
「……出るんだってよ」
「そういう事言わないでよ!
 苦手なんだから……」
「天井にくっついてるそうだぜ」
「て、てんじょう!?」
「高校ん時さ、見たヤツがいたんだって。
 部活で遅くなって、バスにそいつしか客はいなかったんだって。
 何気なく外を見たら、天井にくっついてたって。
 降りる時、運転手に誰にも言うなって言われたって」
「ひぃいいい!」
「友達も見たって言ってたしな」
「ウワサなんて、しんじちゃダメだよ」
「いや、信じてるわけじゃないよ」
「あたし、信じちゃったよ!?」
「お前は素直すぎるんだよ。
 くだらないウワサだぜ?」
「でもさっき、友達が見たって……」
「ああ、そこはウソだから」
「ウソ!?
 もう! 意味わかんない!」
「――って、あれ?」
「ん?」
 風の音が戻る。
 トンネルを抜けた。
 違和感を引きずったまま、俺はアクセルを踏み込んだ。


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